桜子と夏生と秋生と初頭効果
ずるぺったん。ずるぺったん。
「だからさーもう新学期始まって2ヶ月だぜ?」
秋生が言う。
「最初のアプローチでコケているんだよ」
夏生がたたみかける。
「だっから、そんなのわかってるわよ!
あんたたちに話を聞いてもらいに来たんじゃないわよ!」
桜子は怒鳴り散らす。
「夏休み前には告りたいからアドバイスが欲しいだけよ」
「ここは恋愛相談所じゃないよ?」
夏生が呆れて言う。
ずるぺったん。ずるぺったん。
「はん。成功目的で来てるあたりがずうずうしいんだよ」
秋生が吐き捨てる。
「なあんですってえ~?」
桜子が牙をむく。
ガラッ
誠史郎が保健室に入ってくる。
いつものメンバーが視界に入り、ふう。とため息をつく。
「君たち、病人ではないのだからここでの時間つぶしはやめなさい」
「ん?ちゃこちゃんがんばって注意していたんですか?」
「あ、桜井先生。わ、私にはちょっと・・・力不足で」
息を切らせながら北斗が言う。
「そしてまた賑やかなメンバーが来ちゃった訳だ」
と、誠史郎のため息は呆れたものだった。
「助けてよ、誠ちゃん!」
桜子が泣きつく。
「だから、ここは恋愛相談所じゃねーよ」
秋生が桜子の言葉を遮る。
「あーこらこら待て待て。順番に話せ」
誠史郎が仲裁に入る。
「ウチのクラスの舞依ちゃんが春日君の事が好きなんだけど、
夏休み前に告りたいの。それを成功させたいのよ」
まくし立てるように桜子が早口で言う。
「だからそれがおせっかいだし、無責任なんだよ。
あいさつもろくにしない相手と両思いなんて虫がよすぎるんだよ!」
秋生が悪態をつく。
「ふむ。確かにそれは虫が良すぎる」
メガネを手に当て誠史郎がすっぱり言い切る。
「誠ちゃーん」
桜子がガックリと肩を落とす。
「まず第一次接触がないんだろう?あいさつ程度はかわさないと」
「それが出来たら苦労しないよー」
桜子は座っているイスをクルクル回す。
「ん?それで来月、告白するの?できるの?玉砕するよ?」
夏生が感情をこめずに問いかける。
「うるさい!夏生」
桜子がぶすっと顔をしかめる。
「まず、あいさつなどは必ずして存在には気づいてもらいなさい」
誠史郎が小さなアドバイスを送る。
「そして、好意を見せると相手も好意を見せてくれる。『好意の返報性』と、いうやつだ。
時間がかかるから夏に告白するのはおすすめしないね。
あいさつもしてない相手から、いきなり告白されたら
『恋愛の温度差』が離れすぎていてダメになるよ?」
「えーっ!やっぱムリなのぉ?」
「1ヵ月でどーこーなんてテストじゃねーんだよ」
「秋生、言いすぎ」
夏生がクスリとたしなめる。
「そしてフット・イン・ザ・ドア?」
夏生が誠史郎の顔を覗き込む。
「それは一貫性の原理!」
「夏生、あまり頭でっかちにならないように。
素人があまり簡単に言っていい事じゃない」
誠史郎が夏生をたしなめる。
夏生はワザと子供っぽく舌を出して見せる。
「それにしてもいつも思うが、君たちの初頭効果は明らかによくないね」
誠史郎はつぶやく。
「しょとうこうかって?」
桜子がたずねる。
「調べ物をするのも学業だよ」
ため息混じりに桜子の肩を叩く。
「ふっ。そんな事も知らないんだ?行くよ。秋生」
夏生は少し強気な顔で秋生と保健室から出て行った。
桜子はぷぅとほほをふくらませている。
「何よ。あいつらばっかりわかった感じで」