新しい世界へ
「おぎゃあ!おぎゃあ!」
「元気な男の子ですよ!」
声がする。
「ははっ!やったな!」
知らない声。
「ええ、あなた」
知らない声でも。
「ママ、パパ。この子がわたしのおとうと?になるのですか?」
「ああ、そうだぞ!今日からお前はお姉ちゃんだ」
とても落ち着く。
「この子に名前を付けないとねえ」
「パパに任せろ!」
「だめ!わたしがつけるの!」
・・・え?感傷に浸る前に、どういう状況ですか?なんで赤ん坊に?
目の前にいる人達は誰ですか?てか、ここどこですか?
・・・泣きながらどうしてこうなったか思い出そう。
あれは確か・・・そう、自室だ。お気に入りの画像を見ながら一人盛り上がって。
「うっ!・・・・・・ふぅ。・・・ゔぅ!?」
果てた後、突如意識を失い、倒れて。
「・・・えっ」
気がつくと市役所のような窓口に立たされていた。
周りを見ると、人種を問わず沢山の人達が窓口に列を作っていた。頭には輪っかを浮かばせていた。不思議だ。
「ーー!ーーーーさん!」
「は、はい!」
窓口の受付担当者であろうお姉さんに名前を呼ばれた。
「そんな、ぼうっとしてないでさっさと処理しちゃいますよ」
「ええと・・・はい」
処理ってなんだろう。疑問だらけのままお姉さんはてきぱきと書類に何かを書きつつ質問を飛ばしてくる。
「職業と年齢と・・・後、好きな格言を一つ」
「職業は会社員で、年齢が32歳です。格言は・・・貧乳はステータス、希少価値」
「会社員、32歳、ロリコン童貞・・・っと」
ロリコンではあるが、童貞じゃないです・・・たぶん。
それに、貧乳ってだけでロリコンと決めつけるのは良く無い。例えロリコンであっても。
「後は・・・生まれ変わったら何になりたいですか?」
「・・・風?」
「墓の前で泣かないで下さい、と」
そういう意味で言ったのではない。風になればどこにだって行けるし、めくる事や、覗く事が出来るからである。千の風になりたい訳じゃない。
「取り敢えずこれで良しです。そして、貴方の死因についてですが、テクノブレイクです」
「えっ」
「「「「くすくす」」」」
後ろに並んでいる人達が笑っている。そりゃそうだ、テクノブレイクで死亡なんて・・・え?
「ちょ、ちょっと待ってください。死んだ?俺がですか?」
「はい。日曜日午後7時14分54秒。複数回に至る自慰行為により、ホルモンの過剰分泌が原因。間に何回か寸止め行為をしましたね?心臓と逸物にかなりの負担をさせ拍車をかけた。仕事疲れといっても、休日にそれはやり過ぎです」
「ええ・・・」
「笑うな・・・!」「無理だって・・・!」「複数回って・・・っ」「ハッスルしすぎ・・・!」「ぶふぅー!」
駄目だ、何人か声を堪えるのも限界で声が漏れ始めている。吹いてる人もいるし。他の窓口のお姉さん達も笑っている。死にたい・・・死んでるけど。
「じゃあここは天国か何かで?」
「やですねえ、天国なんて有りませんよ。ここは死後案内所です。主に死んだ生物、人限定ではなく、生きている物達が皆等しく次に何になりたいか決める場所です。例えばほら、あそこにゴリラさんがいるでしょ?彼は次にバナナになりたいらしいです」
「バナナって・・・」
椅子に座ってるゴリラをチラリと見ると、頭を掻いて照れていた。褒めてない褒めてない。
「生まれ変わるっていうとまた地球に生まれる?」
「そうとも言えますし、そうじゃないかも知れません。それを決めるのは上の方々ですので」
「上?」
「はい。貴方の世界の言葉で言わせて貰えば神様です。私達はただの受付係ですので」
「へえ・・・」
神様に後は決めて貰う。まるで入社試験みたいだ。
「っと、雑談も程々にして。そろそろ移動してもらいましょう。受付が終わった方々はあちらへどうぞー!」
お姉さんが大きな声で指差す方向を見ると、トンネルのような暗い入り口がある。そこにゾロゾロと人や動物、植物も入って行く。不思議。
後ろから付いて行き、トンネルの中に入ると半そで短パンの女性が立っていた。右手にはスターターピストル。なんで?
「はい!では皆さんにはこれから走ってもらいます!上位10名の種族毎の方に転生権が与えられますので頑張ってください!ゴールはとりあえず走ってればわかります!」
適当すぎじゃないか?走ってればわかるって、どれだけ走る事になるんだ。
「では皆さん!スタートラインに立ってください!」
ご丁寧に白線が引いてあり、それぞれ好きなスタートラインに並ぶ。
周りを見るとざっと50人と匹がいる。先に並んだほうが吉だな。
一番先頭に立ち、足や手をぶらぶらとさせ準備運動をする。ふと肩を叩かれた
。隣を見るとさっきのゴリラがいた、何だ?
「よお。俺、足に自信無くてよ。一緒にゴール目指さないか?」
ウホ。いいゴリラ。こんな親切なゴリラは見たこと無い、ゴリラさんと言わせて貰おう。
「ああ!一緒に転生権とやらを手に入れようぜ!」
「ウホッ!」
いい鳴き声だ。こんな間近でゴリラに触れ合えたのは初めてで、同時に心と心が触れ合えた気がする。
「では!準備はいいですね!くれぐれもずるだけはしないように!よーい!」
お姉さんの掛け声で皆好きな態勢に入る。隣のゴリラさんも走る態勢に入っているがやけに足に力が入っていますね、どうしたのでしょう。
「どん!」
スターターピストルの音が響き渡り皆一斉に走り出す。無論俺もだ。本気走りである。
こういった徒競走で「一緒に走ろう」なんて十中八九嘘だ。小、中、高で俺は学んだ。
ゴリラさんには悪いがこれは必死になる、転生が掛かっているのだ。
少々にやついた表情で後ろにいるであろうゴリラさん・・・ゴリラを探す・・・がいない。何処に?まさか、冷や汗を流し先頭を見ると。
ゴリラが二足歩行で猛スピードで駆けていた。
騙されていたのは俺だった・・・だと?
ゴリラがこちらを見てにやつく。とてもむかつく表情。
先頭を走っているのは主に動物で、その後ろに人間で、最後尾が植物だ。
そりゃ動物は早い、ゴリラ然り、ライオンやカバや像等がいる。動物園を脱走している光景を見てるみたいだ。
人間側はというと、年寄りから子供までいて、大体足の速い人は20代から30代。ハンデがありすぎる。
植物側はなんというか。大木が自らの根っこを足の変わりにしてしゃかしゃかと驚くべき速さで動いている。気持ち悪い。
負けられない。負けられない戦いがここにある!
大分走っていると奥に光が見えた。あれがゴールなのか。
光を確認した者達はまた一段と足の速さを上げ、ゴールへと近づいていく。
俺はというと、順位的には8位とやや危ないが範囲内なので大丈夫だろう。このままゴールを目指す。
突然。
先頭を走っている者達にアクシデントが起きた。
その原因は・・・ゴリラだった。
なんと、ゴリラが先頭を走っている者達を殴り、投げ飛ばし、地面に叩きつけたりして妨害を始めたのだ。それは動物、人間、植物問わず、荒らし始めた。
妨害のお陰で先頭へと躍り出て、ゴリラに話しかけた。
「なにやってんだ!?あんた、バナナになりたいんじゃないのかよ!?」
ライオンを殴る手を一旦止め、こちらに振り向くゴリラ。その顔は怒りに満ちていた。
「こんなのは勝負じゃあねえ。弱い者が負け、強い者が勝つ出来レースだ。誰にだって転生権が与えられるだと?ふざけるな。現に最後尾を見てみろ。幼くして死んだ者、天寿を全うした者。そいつらに転生権が与えられるってもんじゃねえのか。まだこれからがあった奴だっている。次に生まれ変わったら何をしようか思いを馳せる奴がいる。なのに、どうだ?先頭を走る奴らの顔は。そんな思いがある奴に見えるか?へらへら笑いながら走りやがる」
既にボコボコでどんな顔をしていたか定かではないが、ゴリラが先頭を走っていた時に見たんだろうな。
「俺はそんな奴らに転生権は与えられねえ!否!断じて否だ!だから俺は一番先頭を走って妨害する事にした!ズルをしているのは半端な思いで勝負をしている奴らであり、本気で!全力で!勝負をしている奴らに失礼だ!!俺は、そいつらが許せん!!」
ライオンを投げ飛ばし、次の標的を探すゴリラ。
「行け!ゴールを目指せ!ここは俺が妨害して時間を稼ぐ!」
「なんで俺にそこまでするんだよ!」
「約束だ。最初に言っただろ!一緒に走ろうと!後から俺は行く事になるがお前だけでも先に行け!」
「あんた・・・」
最初に疑ってすいません。いや、ほんと。申し訳無い気持ちでいっぱいです。
「くっ!あんた!さっさとゴールしろよ!もし出来なかったら恨むぜ!」
「ああ!そのつもりだ!!」
俺はひたすらゴールに向かった。後ろでゴリラの雄叫びが聞こえて来るが、もう迷わない。迷ってしまったら、ゴリラに殴られちゃうからな。
無事光に到達すると、光が広がり目の前も、そして頭の中までも真っ白になった。これから転生するのだと身を持って感じる。
ただ、ゴリラに一言謝らなくてはいけない。それはーーー
テクノブレイクで死んで、ごめんなさい。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー〆
「以上、人10名、動物9匹、植物10本が転生権を手に入れました」
「ふむ・・・」
ここは死後生徒会。主に先程の転生権獲得競争や行事を取り決める場所。生徒会ではあるが皆全うに会議をしている。
この場所にスーツを着込んだ5人の人物がいる。簡単にどのような人物がいるかというと。真面目君、不良君、ギャル子ちゃん、清楚ちゃん、平等君ちゃんである。平等君ちゃんは、誰に聞いても女の子としか見られない顔と体型をしており、本人は男だと言い張ってるのが取り敢えず平等君ちゃんと呼んでいる。
平等君ちゃんが男なのか女なのかは一先ず置いといて、彼等が何を話しているかである。
「何故、動物が1匹死んでいる?いや、死んでるからここにいるのは分かるが、死後の世界でまた死ぬというのは一体?」
「はい、僕もこの報告を受けた時は驚きました。なんでも、1匹のゴリラが大暴れしてライオンの首をへし折ったみたいです」
「毎回毎回、何者かが大暴れしているのは知ってはいたが・・・今回は死ぬ者がいたか」
「つーかさ、そろそろルール変えね?毎回怒られるの俺らじゃんかよ」
「そーよ!なんであたし達が怒られるのよ!暴れてるのは参加してる奴なんだから関係ないでしょ!」
「ギャ、ギャル子ちゃん落ち着いて・・・」
「清楚!あんたも会話に参加しなさいよ!黙って黒髪靡かせてれば清楚ってもんじゃないのよ!それはクールキャラであって清楚じゃない!」
「ひいぃぃ!設定舐めてました!ごめんなさいぃぃ!」
「ギャル子さん落ち着いてください!不良君の言う通りルールの変更を行えば僕達が怒られなくても済む話しになりますから!」
ギャル子ちゃんはむすっとした表情で座った。平等君ちゃんには弱いのだ。
「ルールについてですが、徒競走以外の物で平和的に、穏便に済ますものとなりますが何かないでしょうか?」
「あんまり現世の記憶がないからなぁ」
「同じく」
「あたしもー」
「わ、私も・・・」
そう、彼等は元人間だ。死後案内所にいたお姉さん達も元人間。
理由は簡単で、転生したくないからだ。
転生したくない、と受付で話すと死後世界で住む事になる。元より死んでいるので、空腹に困らず、睡眠に困らず、性欲に困らなくなる。だが、住む為には必ず会社に入らなくてはならない。会社に入らないと、死後警察が現れ強制的に転生される。人や動物では無く微生物で、1からやり直せという意味らしい。
「一番の課題となる部分が幼児と老人ですね・・・」
「彼等にとって徒競走は苦痛でしかないな」
「年齢別に分けたとしても、その先で問題起こるっしょ?身体的にずるいーだのさ」
「そこよねー、死んだ直前の体でここに来るからもうヨッボヨボの老人が来たらまずいでしょ」
「せめて・・・若い時の体になれたら・・・いいんですけど」
「それです!」
椅子から物凄い速さで立ち上がる平等君ちゃん。
「確か上に申請すれば、若い時の姿になれましたよね!」
「む?確かに死後上層部に掛け合えばなんとかなるかもしれんが・・・」
「あーなにさ?平等君ちゃんが言いたいのは、若い姿に戻して同じ年齢で勝負させるってこと?」
「ええ!何も不平等にはならない筈です!」
「子供はどうするのー?」
「子供に関しても身体を大人に出来るご都合システムがありまあす!」
「いいね!あたしはそれでいいと思いまーす!てか早く会議終わらせてメイクセンス磨きたい」
「では、本日の会議は終了ということで」
「かいさーん」
皆それぞれ鞄を持ち、帰る準備をしている所清楚ちゃんがおずおずと手を挙げて発言する。
「あ、あの・・・根本的な勝負内容どうするか決めてないんですけど・・・」
「「「「あっ」」」」
会議は夜通しで続いた。
ーーーーーーーーーーーーーーーー〆
「えーと、この人を虫に転生させて場所は地球っと。んで、この動物を人に転生で場所は・・・メガトル星で、次はーー」
ここは死後転生地点指定所。最終審議で誰をどこに転生させるか指定する場所だ。
頭を悩ませながら転生地点を決めているのは指定長ちゃん。ロリっ子である。本人希望でこの姿にして欲しいということで、今の姿になっている。理由は不明。
「そしたら・・・」
体がぷるぷる震える指定長ちゃん。
「もうやだあああ!休憩!休憩させてええええ!!」
「指定長、それは職務放棄とされ強制転生されてしまいますよ?さっさと終わらせて下さい」
指定長ちゃんに厳しい言葉を掛けるのは毒舌メイドさんである。いつも指定長ちゃんの後ろで見守っており、仕事をちゃんとしているか監視している。メガネをくいくいしながら毒を吐くのが堪らないらしい。
「だって!だってえ!!1日にどれだけの書類を処理するか知ってるでしょ!!どんだけ死んでんのよって感じだわ!!」
「しかし、それが貴方の仕事であり義務であります。私はこうして貴方に優しいお言葉を掛けるだけで精一杯なのです」
「ちっとも優しくない毒撒き散らしてるよ!?」
「お褒めにあずかり光栄至極」
「褒めてない!!」
判子を押す手を止め、お茶を飲む指定長ちゃん。飲んだ後にロリっこらしからぬ声を上げるのも忘れない。
「人間希望が多すぎるのよ。もう人間枠は埋まってる。後は虫や動物、植物しか空いて無くて、そこを埋めれば解決するの。なるべく希望に沿ってやりたいけど、そればっかりはどうしようもない」
「惑星毎のルールですよね」
「そ。人、動物、植物、等々。生物毎に数が決まってる。それが限界値を超えてしまうと惑星が消滅するのよ。私はもう抱えきれません、てね。惑星も生きてるから自分で核を破壊するの。・・・たまに惑星が受付に来るのはそういう訳よ。でもね、それは私達の責任。上手く分配出来ずに色々な惑星に負担を掛けてる。申し訳ない気持ちで一杯よ」
「どうしようもありませんからね」
「惑星志望の奴とか出てこないのかな。別に転生したら記憶なんて無い訳だし。・・・そうだ!今度受付にでっかく惑星志望募集中!っていう張り紙でも貼りましょう!うん!それがいいわ!そうすれば志望者が一杯来そうじゃない?」
「とても良いご提案ですが、指定長。一人記憶リセットにチェックを入れていなかったですよ」
「あっ」
「全く。口を動かすより手を動かしてください。ほんと見逃しすぎですね無能長。ロリ無能長」
「・・・あんた今日という今日は許さないわ。無能長は無いんじゃない、無能長は」
「至極当然の事を言ったまでですが」
「黙れい!堪忍袋の緒がぶち切れたわ!!覚悟しろ駄目イドがぁぁ!!」
ぎゃあぎゃあと指定所で暴れるロリっ子と毒舌メイド。他の指定長達にとってはいつもの光景なので手を動かし、なるべくあの2人が視界に入らないように仕事に没頭したのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーー〆
途中色々あったけど、光に呑まれて今こうなってる訳だから無事転生は出来たみたい。良かった良かった。
目の前にいる3人はパパさんと、ママさん、お姉ちゃんてとこかな。
「それじゃあ・・・えと、えぇとね」
「ブラックタイガーなんてどうだ!?」
・・・それはエビですよパパさん。そんなキラキラネームを付けられたら絶対イジメられる。
「そうだわ。クックドゥドゥルドゥーなんてどうでしょう?素敵じゃない?」
ママさん。鶏の鳴き声なんて名前付けられたら笑いしか起きないです。しかも呼びにくいし。
「パパとママはだまってて!わたしがつけるの!」
「「ごめんなさい」」
お姉ちゃん強し。頼むぜ、とっておきの名前を付けてくれ・・・!
「コルドにしよ!うん!しんぷる!」
わあい、適度な名前にしてくれてありがとうお姉ちゃん。
「お姉ちゃんがそういうなら、それでいいか!」
「そうね、とっても良いと思うわ」
「わあい!あなたのなまえは、きょうからコルドよ!わたしがなづけおや!」
うん、この家族はすごく優しさに満ち溢れている。心地良い。
今日からどんな毎日が送られるのか楽しみでしょうがない。