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王女のワガママ・後編

「大変だったでしょう。あの人と話すのは」


 あの人――というのはミルシアのことだろうか。まあ、確かに大変だ。けれど食事さえ目の前に出してやればあとは食事に集中してくれるのでそう難しい話でも無い。


「いいや、別に……。食事を食べ始めると、そっちに集中されるものですから」


 だから俺は、そのまま答えた。

 対して、ティアさんは首を傾げる。


「まあ、そうなのだけれどね……。実際に大変なのは姉さんか」

「メリューさんが?」

「そう。姉さんは毎回違う料理を作っているの。大抵ここにくる常連のお客さんは、同じメニューを所望することが多いのだけれど、あのお姫様は毎回違うメニューを所望している」

「毎回……そう言われると確かに」


 十回以上彼女の姿を見ているが、確かに同じメニューが出た記憶は無い。ということは、毎回違うメニューを開発しているということに繋がる。ほんとうに、頭が上がらない。


「そして、姉さんはあのお姫様の願いを汲んでいるの。『バリエーションの豊かな食事』をとりたい、というね」

「バリエーションの豊かな……食事?」

「貴族というのはプライドが高い生き物だから、下賤な民が食べる食料なんて食べたがらない。毛嫌いするとでも言えばいいのかな。けれど、ミルシア女王陛下は違った。彼女は興味津々でいろいろなものを食べたかった。けれど、臣下の人間はそれを許さなかった……。だから、彼女は隠れてここにやってきている、というわけ。この喫茶店の時間軸は覚えているね?」

「――どの世界とも異なる、第666時間軸に沿って時間が進行している」


 俺はかつてメリューさんから言われたことを反芻する。

 第666時間軸がどういうことかはあまり知らないが、この時間軸は『もともとその人間が居た世界の時間軸に順応する』時間軸らしい。よく解らないが、それを聞いて理解するしかない。


「第666時間軸、そう、その通り。そしてあの状態で時間軸を優先されていたのは彼女だった。彼女が望めば、ここで数十年過ごしても実際の世界では数分だけしか過ぎていないことになる。この世界、この時間軸。それがあるから私たちはここで喫茶店を経営出来る」


 ティアさんの言葉を聞いて、俺は頷く。

 ここは異世界の喫茶店。だけど、その異世界にも所属しない空間。

 そこで働く自分はあまりにも異常なのだと――認識せざるを得なかった。


「あら、あなたたち休憩しているの?」


 カウンターにやってきたのはメリューさんだった。メリューさんもひと段落ついて休憩しているらしい。

 俺は頭を下げて、アイスココアを一口。

 こうして昼下がりの喫茶ボルケイノは、こんな感じで進んでいく。


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