続 王女のワガママ・8
ミルシア女王陛下の部屋までそう時間はかからなかった。アルシスさんがノックをして、俺たちは中に入る。
ミルシア女王陛下は椅子に腰かけていた。窓から外を眺めている様子だったが、入ってくるのを見て俺たちのほうを向いた。
「あら、アルシス。ちょっと遅かったじゃない。きちんと持ってきたのかしら?」
「ええ。きちんと持ってきていますよ。ほら、それを置いて」
俺はアルシスさんに言われたようにそれをテーブルに置いた。
「……もしかして、あなた、ケイタ?」
ぴたり。
それを聞いて俺は思わず手を止めてしまった。
その反応を見たミルシア女王陛下は笑みを浮かべて、
「どーして、女装なんかしているわけ? もしかして、ここはメイドしか入れないから、とかそんな理由で? うそでしょう。ちょっと、びっくりなのだけれど……」
笑いをこらえながらも、そう言ったミルシア女王陛下。
俺だってしたくてしているわけじゃねえよ! と反論したかったけれど必死でそれを堪えて、テーブルにそれを置いた。
「……これは、お粥?」
「貝のエキスがたっぷり入った粥になります」
俺は簡単にそれの説明をする。
それを聞いたミルシア女王陛下はスプーンで一口それを掬って、ふうふうと息で冷ます。
「……いい香りね。やっぱり、メリューは素晴らしいものを作るわ」
「それくらいのものであれば私たちでも容易に作ることができます」
「果たしてどうかしら? ……まあ、今はここでとやかく言う必要は無いわ」
そうしてミルシア女王陛下は一口、その粥を口に入れた。
まだ熱かったらしく、必死でそれを堪えつつも、何回か噛んで、それを飲み込んだ。
笑みを浮かべたまま、ミルシア女王陛下は無言でそれをまた掬い口に入れて、また掬う……というルーチンワークのようなことを始めた。
やっぱり美味しいものを食べると、無言になる人が多い。
とやかく言っている人もいるけれど、こんな感じになる人のほうがモノを美味しく食べている、という感じがする。いや、別にとやかく言っている人に文句をつけたいわけではないが……。
ミルシア女王陛下が粥を食べ終えたタイミングを見計らって、アルシスさんは俺のほうを向いて、
「まことに申し訳ありませんが、このお皿を洗っていただけませんか? ……これから、ミルシア女王陛下は着替えをしないといけませんので、そこに男性が居るのは非常に面倒なことになります。……それくらい、常識の範疇で理解できますよね?」
だからどうして逆撫でするような発言ばかりするのか。
そう思いながらも言い返すことは出来ず――俺はそれを受け取って、先ほどの厨房へと向かうのだった。