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王女のワガママ・中編

 だが、違った。

 ミルシアはそれを両手で掴んで、そのままがっついたのだ。

 その行為が信じられなかった。

 そんなことをするとは思わなかったからだ。

 ドレスを着て、高貴な雰囲気を放つ彼女が口にマキヤソースがついても気にすることなくただ手羽揚げにがっついている。

 その光景がとても新鮮で――とても綺麗だった。

 わき目も振らず熱心に手羽揚げを食べていた彼女は、漸く食べ終えたのか、骨を皿の上に置いた。骨は綺麗になっていて、肉はひとかけらも残っていない。猫跨ぎ、ってやつだ。あ、でもあれって魚限定だったかな? もしかしたら誤用かもしれない。

 そんなことはさておき。

 差し出したナプキンで手や口を綺麗に拭くミルシア。そういう一所作一所作が、どう見ても貴族のそれだった。繊細で、丁寧で、高貴で。そんな彼女が手羽揚げにがっついていた――なんて、実際に見たにも関わらず想像できない。


「悪くない味ね」


 そう言っているが、実際には輝くほどの笑顔だ。食べる時も終始そうだったし今でもそれ以上の笑顔になっている。食べることが珍しいもの――ってことか。


「女王陛下に食べていただけて光栄です」


 頭を下げるメリューさん。

 実際に食事を作っているのはメリューさんだから、そう言われるのはとても嬉しいのだろう。


「ふ、ふん! 次はもっとおいしいものを作りなさいね!」


 なぜか顔を紅潮させて、銀貨一枚を置いて、そのまま立ち上がり出ていった。

 銀貨一枚。当時はその価値が理解できなかったが、今思えばあまりにも多すぎる量だ。この半分でも多すぎるというのに。

 けれど、毎回のようにミルシアは銀貨一枚を置いておく。毎回多すぎる旨を伝えているのだが、「受け取りなさい!」の一言でそれ以上食い下がることは無かった。


「そこの店員、お水いただけるかしら」



 ――ミルシアの声を聞いて、俺は我に返った。



 見るとミルシアはオムライスの半分を食べ終えていた。何と言うか、早い。


「はい、ただいま」


 一先ず水を欲しているので、水をコップに注ぐ。

 七分目くらいまで入れて、それをミルシアに手渡す。


「ありがと」


 それを受け取り、ごくごくと音を立てて水を飲んでいく。

 そして再び彼女は卵焼きに包まれたドームの解体作業へと戻っていった。



 ◇◇◇



「今回も悪くない味だったわ。それじゃ!」


 銀貨一枚をいつものようにカウンターに置いて、ミルシアは扉から出ていった。

 毎回思うけど、騒々しい客だと思う。


「お疲れ様」


 声を聞いて振り返ると、そこに立っていたのはティアさんだった。ティアさんはコップに満たされたアイスココアを持っていた。


「いただけるんですか?」

「休憩用。私のものはあるから、心配しなくていいよ」


 見るとティアさんの横にあるカウンターに、一回り小さいコップが置かれている。

 ありがとうございます、と言って俺はアイスココアの入ったコップを受け取った。


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