表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/254

ケイタのクラスメイト・承

 踵を返して、俺は桜と向かい合う。


「どうした、桜? 俺に何か用か?」

「何か用か、ではないわ。どうしてあなたが毎日こんなにそそくさと帰ってしまうのか、それについて今日こそ解決させてもらうわよ!」


 ぴしっ! と俺を指さして桜は言った。

 というか小学校の頃に人のことを指ささないと習わなかったのか?

 桜の話は続く。


「取り敢えずそんなことはどうだっていいの。そんな細かいことよりも、私が気になっているのはたった一つ。……どうして定時ダッシュする必要があるのか、ということよ。家に帰って、何かするほどの用事があるということ?」


 定時ダッシュとか社会人みたいな言い回ししやがって。

 なんというかどこか背伸びした言い回ししている気がするんだよなあ、桜は。昔からいつもそうだ。いつもそうなんだよ。

 俺は溜息を吐いて、桜に話す。


「じゃあ、桜。言うけれどさ、それを俺がお前に言う必要性は有るのか? 理解できないと言っても過言ではないし、そこまで突っ込まれるともはやプライバシーの問題にもなると思うのだけれど?」

「何言っているのよ、私はあなたのお母さんから守るよう言われているの。だから、あなたがそそくさと帰っている理由を聞くのも当然の理由でしょう?」


 どこが、だ。

 一体全体どういう理由なのだ、と。

 そもそも母さんがどうして桜にそういう風にゆだねたのかが理解できない。一応言っておくけれど、思春期の男の子って一番秘密があるところだし、それを母親や異性に知られたくない段階だってことは、知っているだろ。それくらい理解してくれよ。

 そこのところ、母さんと桜は似ているんだよなあ……。根が真面目、というか。真面目すぎるだけなのだと思うけれど。

 そんなことはどうだっていい。

 問題はどうやって桜を振り切るか、だ。このままだと確実にボルケイノに行く時間が無くなってしまう。無くなってしまう、とはどういうことか? それはつまり、メリューさんにとことん怒られてしまう、ということだ。

 所詮雇われの身である俺は、雇い主であるメリューさんに逆らえるわけもない。逆らうとしたら、それこそボルケイノを辞めるときだろう。まあ、そんなタイミングは当分訪れないだろうけれど。


「ねえ、聞いているかしら?」

「ああ、聞いているよ。聞いているとも。けれど、桜の質問には答えられない。俺は急いでいるんだ。申し訳ないけれど、またいつかの機会に話すことにするよ」

「そう言って……! 話す機会なんて永遠に現れないじゃない! 追い続けるからね、私は!」


 もう間に合わない――そう思って俺は走り出す。

 すでに靴に履き替えていたから、外に走り出すことは簡単だ。桜は運動神経もいいけれど、俺より足が速いことは無い。だから全力で走れば追いつかれることは無い――!

 そして背後を振り向くと、案の定追いついていないようだった。

 勝った……! と俺は心の中でガッツポーズをして、なおも町の中へと走っていく。

 目的地はボルケイノへと繋がる異世界への扉。

 そこは俺にしか見えないし(正確に言えば俺と、俺に触れている人間になるのかな)、許可されている人間にしか入ることは出来ない。だから扉まで逃げ切ってしまえば――。

 そう思って、俺は走っていく。目的地へと、残された時間はもうあまりない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ