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ボルケイノの最後の仕事・後編

 そんなはずがない。

 その声は、ここに居る人間じゃない。

 もし来られたとして、どうしてここが解った?


「……メリューさんですよね? こっちを向いてください!」


 私は、恐る恐る振り返った。

 ああ、やっぱりそうだった。

 徐々に見えてくる姿を見ながら、私はただ小さく溜息を吐くことしかできなかった。

 私の背後に立っていたのは、私に声をかけたのは、私の予想通り、ケイタだった。


「メリューさん……どうして、急に辞めようとしたんですか。俺に言わずに!」

「……それは申し訳ないと思っている。だが、目的は達成できた。私としては、これで十分だ。これで人間に戻ることができるのだから」

「目的……『世界中の人々に笑顔を与える』ですよね。そんなこと、簡単に達成できるんですか!」

「……達成、できた」


 私は、それしかいうことができなかった。

 対して、ケイタははっきりとした口調で言った。


「そんなこと、嘘じゃないですか!」


 ケイタの激昂に、私は思わず身体を震わせてしまった。……アハハ、ハズカシイな。私はずっと、ケイタを偉そうに先輩ぶっていたのに、こんなんじゃだめじゃないか。

 ケイタはさらに続けた。


「だって、あなたが笑ってない」


 ……。

 私は何も言えなかった。

 私は何も、言えなかった!

 私の頬を伝う、温かい何か。

 それが何であるか、もう言うまでもなかった。


「……あなたは笑っていない。たとえ、それがあなたの決めた答えであったとしても! ボルケイノの目的を達成していない! それを俺は許せない!」

「そうかもしれない。……けれど、けれど、そうであったとしても、もう決めたことなのよ!!」

「ワスレナグサ」

「……!」

「あの花を出した真意を教えてください」

「……あれは……!」


 私は、頷いた。

 そして、ケイタがゆっくりと近づいて――。

 ケイタの唇と私の唇が、触れた。

 ケイタは、言った。


「戻りましょう、メリューさん。まだ、俺達には出来ることがあるはずです。諦めちゃだめですよ」

「……ああ、そうだな」


 そして私は、ケイタの手を取った。



 ◇◇◇



「……結局、あの女は何がしたかったんだ?」

「聞きたいですか?」


 岩山の上。大きなドラゴンとティアが話をしていた。ドラゴンはティアの父だった。


「ああ、できることなら聞きたいね」

「昨日、私に言ったんですよ。もう目的は達成できたと思う。だからボルケイノを畳もうと考えている、と。たぶん疲れていたのでしょう。それに、彼女はもうそれなりの年齢ですからね。恋愛だってしたいでしょうし。……けれど、彼女的にはマズイと思ったのでしょうねえ。だって、彼女の恋は、そう簡単にかないっこないですし、しかも、どちらかといえば不可能に近い壁があったわけですから。一目ぼれ、ってやつですよ。まったく、人間って恐ろしいですよ」

「……なるほど。それで? 誰に恋をしていたんだ?」

「……え? お父様、まさかこのやり取りで全然わからなかったのですか!?」

「え、あ、ああ……。まったく、解らなかったぞ」


 父親の言葉を聞くと、ティアは頬を膨らませた。


「ほんとう、お父様はそういうことに関しては鈍感ですね。まあ、別にいいですけれど」

「……すまん、ティア。お前が何を言っているのか、私にはさっぱりだが……」

「ところで、また続けてもいいですよね? ドラゴンメイド喫茶!」

「ああ、かまわないよ」


 父親は笑みを浮かべて、言った。


「ありがとう、もう少しだけ二人の様子を見たくなったの。もちろん、ボルケイノの目的もしっかりと達成できるように頑張ります」

「ああ、よろしく頼むよ」


 そして、二匹のドラゴンの会話は終了した。


エピソード14 終わり

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