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初めての客人・承

「何を言っておるか。わしはいつもこの時間だよ」


 ヒリュウさんはそう皮肉を言いながら、先程の男から一つ席を空けた席に腰掛けた。

 座ったと同時に俺は水を差し出す。あと温かいおしぼりも。


「おお、ありがとう。ここに来るまでに手が悴んでしまうものでね……。いやあ、ほんとうにここのサービスは翌行き届いておる。どうだ、わしの国で二号店をオープンするというのは?」

「人手が足りないし、今のスタイルをやっていくにはこれが充分なもので」


 ヒリュウさんの言葉をあっさりと受け流すメリューさん。

 確かにそうだ。現状スタッフは俺を入れて三名。それでも充分回していけるかというとそうでもない。メリューさんがほぼ調理に回ってしまうため、俺がホールスタッフとして頑張る必要がある。一応ティアさんもホールスタッフだけど、調理のタスクが増えていくとティアさんも手伝わないといけないので、基本は俺一人。忙しいときはテーブル席とカウンター席を合わせて三十席はある喫茶ボルケイノが満員になってしまうほどだ。最初はどう対処すればいいか解らなかったが、今はやっと捌けるようになってきた。人間、場数を踏めば案外出来るものだと思い知らされた。


「ケイタ、出来たからもっていって」


 ふと厨房から声が聞こえて俺はそっちへ向かう。見るとお皿に盛り付けられていたのは……ジャガイモと牛肉、ニンジンに玉ねぎが入った煮物だった。醤油ベースになっているのか、少し黒めだ。

 というかこれって。


「肉じゃが、じゃないですか」

「そうだが? まあ、味見してみたまえよ」

「……これは、客に出すものでしょう」

「だからこれを、だ」


 よく見ればメリューさんは器用に箸を使ってジャガイモを掴んでいる。

 ……それを食べろ、ってことか?

 俺はそう言いたかった。だって現にメリューさんはニヤニヤしながら俺の行動を窺っているようだったし。わざとこのような状況に陥れたのだ。策士というかなんというか……。


「解りましたよ」


 一つ、溜息を吐いて、俺はジャガイモを口に運んだ。正確には、メリューさんが運んでくれた、という話だが、まあこの際どう説明しようがどうだっていい。

 そしてジャガイモが口の中に崩れて味が広がる――――――ん?


「どうした、ケイタ? 何かおかしい点でも?」

「いや……このジャガイモ、やけに塩気が強くないか?」

「それだよ。そう、それだよ」


 メリューさんは気付いたことに嬉しかったのか、ぴょんぴょん小刻みにジャンプした。こういうところは可愛いのだけれどね。

 話を戻そう。

 メリューさんはどうやら凡て説明し終えたような感じだったけれど、まだ俺は何も理解できていない。いったいメリューさんは何を知っていて、何故このような味の濃い料理を作ったのか。


「……まだ解らないのか?」


 漸く。

 漸く溜息を吐いて、そう言った。

 どうやら教えてくれるようだ。だったら最初から教えてほしいものだったけれど、それはさすがに言わないでおいた。


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