メリューさんの異世界珍道中・6(メニュー:チョコバナナ)
はてさて。
色々と苦労はしたけれど、何とかケイタの居る学校まで辿り着いたぞ!
……しかし、異世界での道中がここまで大変だとは。もう少し運動はするべきかな。思えば、ボルケイノに居るばかりであまり買い物という買い物もしていないし。しなくて良い、とでも言えば良いかな? 詳しい話はあんまり分からないんだ。ずうっと暮らしては居るけれど、分からないことだってある。
「リーサ、意識操作魔法は順調?」
「……そうじゃなければ、私たちはここまで辿り着くことも出来ない」
ゼエゼエ、と息を切らしながら答えるリーサ。
……もしかして、私以上にスタミナがなかったとかそういうオチ?
「何処かで休む? いずれにしても、これからケイタと電話をしないといけないし」
「……ああ、そのハイカラなもので通信をするんでしたか。便利なものですね、この世界の技術というのは……。それをあなたが使いこなしているのも、ちょっと面白い話ではありますが」
へっへーん。
自慢はしたくなるけれど、これでも随分と努力をしてきたんだよ。血の滲むような、ね。
外に出なくても知識を得られるのは有難いことだし、これで私も結構レシピのストックも出来ている気がする。ネックなのは充電? というやつで、電気というものを与えなくてはいけないらしいのだけれど、これがボルケイノの世界には存在しないために、ケイタにたまに持ち帰ってもらっては充電をしてもらっているのだ。
面倒だろう? この世界も。
とはいえ、こちらの世界も魔法があまり使えない——っていうデメリットはあることはあるのだけれど。
休憩場所を探していると、誰も座っていないベンチを見つけた。
「オッケー、オッケー。あそこに座りましょ! ところでこれって我々が座るとどうなるのかしら?」
「ベンチそのものも視界から消失する。例え、そこにベンチがあると理解していたとしても、私たちに干渉することはない。私たちの存在を、元から知らない限りは」
「へえ、便利な魔法ですこと……」
ベンチに腰掛けた私は、すぐさまスマートフォンを使ってケイタに電話をかけた。
「もしもし? ケイタ、今ようやく私たち学校まで着いたのだけれど。あまりに広くて場所がわからなくって。案内してもらえる?」
『メリューさん、やっと着いたのか。……ううん、そうしたいのは山々なんだけれど……」
「だけれど?」
『ちょっと、俺が今クラスにひとりぼっちって訳じゃないからさ……。何とか一人で来れないかな。北校舎の三階まで上がってきてくれれば、そこまでだったら迎えに行けるから、さ!』
「え、何無茶を……」
『じゃあ、ごめんね!』
そう言って、ケイタは半ば強引に電話を切ってしまった。
「…………あのやろう」
「その感じだと、通信はうまくいかなかった様子ね?」
「ケイタ、なんか取り込んでいるんだと。途中までは来てくれるそうだけれど……。取り敢えず、言われた通りの場所に向かうしかなさそうだね」
「そこまでどれぐらい?」
「うーん、何とも」
スマートフォンがポロン、と電子音を発したのはちょうどその時だった。
これは確かメッセージを受信した時だったはず。そして、そのメッセージが来るのは大抵ケイタだけだ。
ケイタからは、謝罪しているような絵文字と学校の地図が添えられていた。
「……いやいや、これで行け、と? こちとらこっちの世界には一度も来たことがないっていうのに……」
とはいえ。
ここでああだこうだ言ったって、何も解決しやしない。
「……いっちょ、行きますか」
「行くの?」
「取り敢えず、ケイタのクラスに着いてから本格的に休憩をとりましょ! 先ずはそこから、よ!」
そう自らを奮い立たせて——私は、ケイタの居るクラスへと向かうのであった。
◇◇◇
電話をしてからどれぐらい経過しただろうか。
俺は、北校舎三階にある唯一の階段の前で待っていた。
「……やっぱり迎えに行ったほうが良かったかなあ? けれど、どういうスタイルで来ているかも分からないし、メリューさんが周囲に気づかれたら大変なことになるのは間違いない訳だし……」
そう思いながらああだこうだと時間を潰していった結果、メリューさんには一人で来てもらうこととしたのだ。
何も知らない場所で、何も知らない道を通る——とても不安であることは変わりないだろう。
しかしながら、同時にそれは彼女たちを守ることに繋がる。
それぐらいは、メリューさんも分かってほしいものだけれど。
「ケイタ!」
声がした。
階下を見ると——そこにはローブを羽織ったメイド服を着た、メリューさんとリーサが立っていた。
「いやあ……。まさか本当にやって来れるとは。思いもしなかったよ」
「心配しているぐらいなら、最初から迎えに来い」
俺はメリューさんと会話を交わしていた——ちょうどその時だった。
「何やっているんだよ、ケイタ。幾ら暇だからって、店番を俺一人に押し付けるんじゃねえよー!」
その声を聞いて、俺は凍りついた。
声のした方を振り返ると——そこに立っていたのは、ユウトだった。




