メリューさんの異世界珍道中・4(メニュー:チョコバナナ)
ローブを被るのは、流石に怪しまれる。
それはケイタから散々言われたことだった。昔はたいしたことなかったらしいのだけれど、どうやら若干世界が物騒になってしまったようで、顔を隠してしまうのは宜しくないらしい。
ではどうすれば良いか——色々と考えた結果、導き出したのがこれだ。
「それにしても……、魔法というのは恐ろしいわね。こんなに気付かれないものなの?」
意識操作魔法。
簡単に言えば、目の前に対象が居るとは誰も思わないような、そんな魔法らしい。
相手の意識を上手くずらす、とか言っていたかな? 正直、その辺りはさっぱり理解出来ないのだけれど、まあ、上手く使ってくれるんならそれはそれで構わない。
しかし、一つ疑問が。
「これ、ケイタとかは如何なんだ?」
「問題ない。一応、私達を見たことのある——知っている人間だけは視認出来る。けれど、それを誰かに伝えてしまうと駄目。あっという間に認識されてしまうから。だから、それはケイタに連絡しておいてね」
「ああ、分かった」
つまり、人とはすれ違うのだけれど、その人達からすればただの人間としか思わずに——こちらには全く意識を向けてこないらしい。
難しい話ではあるけれど、こそこそせずにこの世界を歩き回れるのは良いことだ。
「……え、それじゃさっき私が言った注意事項は?」
そう。
向こうの世界の人間にはあまり気付かれてはならない——そう私が言ったばっかりではないか。
しかし、リーサは答える。
「残念ながら、魔法は完璧ではないの。どういった事象かは置いておくとして——魔法の効果が薄れてしまうことだって有り得る。完璧な魔法を作り出すには、この世界はマナが希薄過ぎるから」
そういや、前にそんなことも言っていたっけな。
しかし、スマートフォンがあるから便利ではある。ケイタ曰く、あの『扉』から学校まではそう遠くないと言っていた。歩いて行ける距離だし、もし難しければ呼んでくれて構わないとは言っていたけれど、多分ケイタが一緒に居ると私達の本当の姿を視認出来てしまうのかも? だとしたら、それはそれで大問題だ。ケイタを守れないし、私達だってどんな目に遭うか分かった物ではない——。
「ボルケイノの『扉』も万能ではないわね……。何というか、もう少し近場に設置してくれれば良いのだけれど。その辺り、何とかならないのかしら」
「それが出来れば苦労しないと思いますけれどね」
言ったのはリーサである。
それはご尤も。そもそも『扉』のメカニズムも良く分かっていないしね。どういう状況で、扉が世界とボルケイノを結ぶのかさえも分かっていない以上、あの場所に現出しているのもまた奇跡に近しいのかもしれない。
「とはいえ、ケイタが言っていたが……電車? と言うものに乗って移動するらしい。出来るのかな、そんなこと」
「意識操作魔法を使っていますから、それくらいなら造作でもありません。人に気づかれなければ良いのでしょう?」
「そりゃあそうだが……」
とはいえ、こちらはこの世界のシステムを全く理解出来ていないと言う圧倒的なハンディキャップがある。
一応ケイタから支給されたスマートフォンなるもので一通り調べてはみたものの……、やっぱり最後まで理解出来ずにいた。
「とにかく、他の人に気づかれなければ良いのですよ。あとは何とかしてくれます。そうでしょう? 意識さえこちらに向けられなければ、どんなことだって出来ますから」
「そう言うものかね……。まあ、この世界に魔法という概念が存在しなかったのが救い、か」
ケイタ曰く、科学技術という概念が発展していった過程で魔法は消滅してしまったと言っていた。魔女も異端者扱いされて殺されてしまったのだという。
そうなると、もし仮に我々が見つかってしまった場合どうなってしまうのか——あまり想像したくはないものだ。
「とにかく、先に進みましょう。私だって色々と体験したいですから、この世界を」
「……だから昨日はあんなに楽しそうに話をしていたのか? リーサにしては珍しいと思っていたが」
そもそもボルケイノに来る前は放浪の旅をしていなかったっけ?
連載期間にしてもう五年以上も前のことだから、忘れている読者も多い気がするけれど。
「旅はいつだって良いものですよ。いろんな知識や経験を与えてくれますから……。やっぱり定住するのも良いんですけれど、旅をして新たな気づきを得られるのも悪くないですし」
「まあ、否定はしないけれどねえ……」
私だって旅をしてみたいことはあるよ。ボルケイノを一日ぐらいお休みにしたって良いんじゃないかな、って。
だけれど、何というかな、休みにしちゃうと身体が鈍るというか……何故か落ち着かないんだよな。ケイタにそれを話したら、ケイタの世界では病気みたいに言われることがあるらしい。ワーカホリックとか言っていたかな? 働きすぎに病気の概念を持ち込むとは面白いよな。
閑話休題。
とにかく今は急いでケイタの居る場所へと向かわねばなるまい。
そう思いながら、私たちはケイタから連絡を受けた待ち合わせ場所へ向かうべく、巨大な建物が連なる区々を歩いていくのであった。




