メリューさんの異世界珍道中・3(メニュー:チョコバナナ)
ともあれ、だ。
俺たちはいかにしてメリューさんたちを異世界から無事に連れ出して観光させることができるのか——それに焦点を置いて延々と話をし続けた。
「……どうすりゃあ良いのかね」
一応、リーサが魔法さえ使えれば良いのだと思う。
しかし魔法という概念にトンと縁がない以上、どういうメカニズムで魔法が発動されるのかさえも分からなかった。
「じゃあ、取り敢えず予行演習? とやらをするとしても——」
「まあ、人気のない場所が良いかなあ……。例えば深夜の公園だとか?」
「行けるのか、それ?」
とはいえ、だ。
先ずは俺たちの居る世界で、魔法が使えるかどうかをチャレンジしなければならない——そう思って、会議の幕を下すのであった。
◇◇◇
翌日、深夜。
近所の公園に、俺たちはやってきていた。
違う点と言えば、その世界には似つかわしくないドラゴンメイドと魔女が一人居るぐらいか。
「……これがケイタの住んでいる世界、か。何というか、凄い世界だね。建物は全て高いし、空は少し薄汚れているし、人は深夜であっても歩いているし、道は明るいし……」
確かに、メリューさんから見ればこの世界は異常かもしれない。
しかしながら、正直言うとこの世界から見ると、メリューさんたちの方が異常なのだ。
何せ魔法やドラゴンという概念は、ファンタジー。ゲームや小説といったフィクションの中でしか存在し得ないのだから。
「にしても、まさかこんなあっさりと来てくれるとは……」
「ボルケイノの技術を舐めてもらっちゃあ困るね。とはいえ、そのメカニズムはさっぱり分かっていないのだけれども」
「そうですか……。まあ、別に否定するつもりではないのですけれど。取り敢えず、やることは一つです」
「そうね。……リーサ、早速何か魔法を使ってくれないかしら?」
「魔法。……この世界は、少しだけマナの力が弱いみたい。けれども、使えることは使えるんじゃないかな」
「それでも全然構わないよ。何か使える魔法は?」
メリューさんの問いかけに、リーサは呟く。
「ううん、と。ちょっと待っていて……。例えば、これなんかは」
少しだけ、目を閉じる。
そして、こちらには全く聞こえないぐらい小さな声で何かをぶつぶつと言った。
そして——それを唱え終えると、リーサは右手を掲げる。
その上には、小さな火の玉が浮かんでいた。
「おおっ……」
正直、リーサの魔法を見るのは久しぶりな気がする。ファンタジー作品なのにそれはどうなんだ? ってツッコミもあるだろうけれど、別に良いだろう。十年も続けているけれど、そういう曖昧な感じで進めていくのが一番良いのだ。
俺が少しそんな感じで感心しているとサクラが、
「い、急いで火を消して。この世界は火に敏感なのだから。放火なんて思われてしまうと、大変なことになってしまうから」
「そうなの? この世界は面倒ね」
「良いから早く!」
リーサは首を傾げながらも、すぐに火を消す。
いずれにしても、リーサが魔法を使えることは間違いなかった。
「これでもだいぶ安心ではあるかな……」
何せ、俺たちが住む国では一般人の銃の利用が許されていない。
つまりは、メリューさんに何かあったとしても守る術がないのだ。ここが異世界ならともかく、ファンタジーをフィクションの中の一つとしてしか捉えられていないような世界だ。メリューさんの存在をなんとかして解明しようと思う人間は出てくるだろうし、その時俺たちがそれに立ち向かえるか? というと、答えはノーと言っていい。
残念な話ではあるが、これが現実なのだ。
「とにかく、これからはこちらも文化祭の準備に注力しないといけないからね……。ケイタも分かっているよね? これからクラスの出し物の準備だってしなくちゃいけないでしょう?」
「まあ、こっちは簡単だよ。……というか暇な出し物でもあるからね」
「ほう? どんなものをやるのか気になるな。——とはいえ、今は聞かない方がいいかな。大事にしておくよ、当日までね」
「あんまり悪目立ちしないでくれますよね……?」
こうして、いくつかの不安要素は残しつつも、メリューさんを守るための予行演習は幕を下ろすのであった、
◇◇◇
ボルケイノ。
今日はケイタの居る学校? とやらに行く日だ。……おっと、いきなり語り手が変わるのは困るだろう。私はメリューだ。このボルケイノの調理全般を任されている。そして今日はケイタの居る異世界へと足を踏み入れる日でもある。
文化祭、とやらはどうやら学校で行われる行事の一つであるらしい。かつてケイタからもらったスマートフォンで色々と調べ上げた。学校のクラスごとで様々なお店を出して、学校の外からもお客さんを呼んで盛り上げる一大イベントだという。なんとも楽しそうな説明ではないか。
「リーサ、準備はできたか?」
目の前に居るリーサはうんうんと頷いた。
彼女もまた、今から向かう異世界に興味進々の様子だ。
「一応言っておくけれど」
でも、釘を刺しておかなくてはいけないな。
「?」
「……向こうの異世界の人たちには、あまり気づかれてはいけないし、物を持ち帰ってもいけない。それはいいかな?」
「ケイタはちょくちょくこっちに物を持ってきているのに?」
「ケイタはいいんだよ。あいつはあの世界の住民だろう? 住んでいる世界の住民が、その世界のものをボルケイノに持ち込むのは構わない。でも、私たちが持ち帰るのはダメなんだ。なぜだかは知らない。そういうルールってものだ」
「ふうん。分かったわ」
物分かりが良いようで助かるよ。
「それじゃあ、向かおうか」
そして、私はボルケイノの扉を開けた——。




