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(ドラゴン)メイド喫茶にようこそ! ~異世界メイド喫茶、ボルケイノの一日~  作者: 巫 夏希
エピソード69(シーズン4 エピソード9)『スープパスタ』
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オフモードの簡単料理・後編 (メニュー:スープパスタ)

 さて調理に再開しよう。そのレースタークの酒漬けを一回し鍋に入れる。直ぐに酒の香りと辛味のつんとした香りが鼻を刺激するが、それも一瞬だ。火を掛けて熱しているので酒はあっという間に飛んでしまい、香りが微かに残る程度だ。

 スプーンで掬って、味見をする。

 うん、悪くない。

 我ながら天才では? と自画自賛したところで、スープはこれぐらいで良いだろう。

 次は具材だ。ライスやパン——色々と考えたが、今回はちょうどこないだアルシス——ミルシアの国に居る、彼女に仕えるメイドのことだ——からもらった小麦から作った麺がある。確か、パスタと言っていたか? スープに合いそうだし、どうせならこれを使ってみようと思う。

 別の鍋を用意して、水を沸騰させる。沸騰させると、塩をひとつまみ鍋に放り込む。確か、水が浸透しやすくなるためだとか聞いたことがあるけれど、詳しい話は覚えていない。誰も彼も、過去の誰かがやって来たことを理由も分からずに実施する。それが歴史ってもんだと思う。

 程良く沸騰してきたので、パスタを入れる。今回は五人前。一人前が一束と言っていたかな、シュテンとウラはあれでも鬼なのでまあまあ食べるだろう。と考えると、二人でプラス一人前。

 都合、六人前という計算だ。


「足りるかな、こりゃ」


 そう思い、しっかり計測してみると、七人前だった。あと一人余る計算だけれど、恐らくはボルケイノのメンバー全員が一回ずつ食べられる計算なのだろう。

 しかし、アルシスも誤算だろうな。鬼というのは、大抵大食らいなのだ。毎回私も困り果てているぐらいには。まあ、食べる分働いてはもらうのだけれどね。


「……ま、取り敢えずは良いでしょう。今度また持ってきてもらえればいいや」


 一応ケイタとサクラの世界にもパスタはあるって言っていた気がする。

 食感や味が違うかもしれないけれど、大体似ている物だろうし、別に直ぐに食べさせないといけないって話でもないはずだ。

 今日の朝ご飯はこれで決まり。

 とにもかくにも、朝ご飯を食べないと始まらない。

 私はそう思って、腕まくりをするのであった。



◇◇◇



 一度何を作るかを決めてしまえば、後は早い。何でもかんでも目的を定めておくと、経路を考える上で頭もスッキリする——なんて話は案外有名だったりするのだろうか? と言いつつ、私も何時かやって来た学者先生の話をコピーしているだけなのだけれどね。

 残念ながら、私には料理を作る才能はあったけれど、それ以外はてんで駄目だった。

 ここに居ること自体は、結果としては問題なかったと思う。

 様々な世界の、様々な住民にご飯を振る舞えるのだからね。こんなこと、望んだとて得られるものではない。

 あっという間に作り上げた料理を見て、私は思わず笑みが零れてしまう。

 うん、今日も問題ない。百点満点だ。

 自分に甘いと言われてしまえば、それまでだけれど。


「リーサ、ティア、シュテン、ウラ! 出来たから、自分の分を取りに来て!」


 配膳は自分の仕事だ。

 これはボルケイノに入ってからの数少ないルールとして、彼女たちに課している。

 掃除や洗濯はかわりばんこでやってくれるから、別にここまでしてもらう必要はないのかもしれないが……、しかしながら待っていれば誰かがご飯を配膳してくれる、等といった甘い考えは投げ捨ててもらう必要がある。

 別に、私が居なかったら何も出来なくなる訳ではない。皆様々な境遇から、偶然にも近い出会いを経てボルケイノにやって来ているのだから。

 少なくともボルケイノに来てからの方が幸福度が高い——そう思ってくれれば、もう何も要らないのだけれどね。



◇◇◇



 朝ご飯を持っていってもらうと、漸く自分の分を食べることが出来る。大体、シュテンとウラが鬼のために大食らいであることが原因だ。食べる量をある程度コントロール出来るのだろうけれど、その細身の何処にそんな食べ物が入りきるのか? と疑問を浮かべてしまうぐらいには、良く食べる。

 良く食べて良く眠るのは、子供の特権かもしれないが。


「いただきます」


 一人、キッチンにて。

 朝ご飯を食べるのが、いつものスタイルだ。

 ケイタから言わせると、ルーティーンっていう言葉らしい。ケイタの世界の言葉は、相変わらず難しくて良く分からない。スマートフォンなるものも持っているけれど、かといってそれを完璧に使いこなせているかと言われるとそうではないし。

 一口頬張る。

 鶏から出た出汁とマキヤソースの塩気が良い感じにパスタを味付けしている。材料が少なく見栄えもはっきり言って良いとは言えないものであるから、メニューに追加するのは難しい。

 はっきり言って、これはまかないであるからこそ完成する料理——なのだと思う。

 優雅に楽しむ余裕ぐらい持ち合わせたいものだけれど、いつも早く食べ終えてしまう。

 強いて言うなら、反省点を考えてしまうぐらいか。次に活かすことが出来ればそれで良い。

 全ては、お客様を喜ばせるためだ。

 ……何か、良いこと言ったような気がするかも? 最近はケイタ達に感化されている気がするな……。別に悪いことではないと思うのだけれど、特定の異世界に肩入れ過ぎるのも良くはない。

 そう締めくくって、私は空っぽになったお皿を洗うべく立ち上がるのであった。

 ボルケイノの休日は、未だ始まったばかりだからね。


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