神なる龍の呪い・2
「……ここに居るのか?」
私はその場所を見て、思わずそう呟いてしまった。
そこにあったのは――巨大な雪山だった。かつてその世界で霊峰と呼ばれた山だったと認識している。山岳信仰、というのもあるが……私としてはそんなものはどうだっていい。
私が求めているのは、この雪山に居るという伝説的存在である――ドラゴン。ドラゴンはとても珍しい存在だが、それ以上に食材が豊富に採ることが可能になる。
血を使えばどんな出汁にも勝るスープが生まれ、肉を使えばどんな肉よりも味が染み出る肉が生まれ、骨から出るコラーゲンはどの種類と比べても敵わない量が産出される。
「要するに、料理人にとっては喉から手が出るほど欲しい食材……というわけ、か」
ぽつり、とそう呟いて再び歩き始める。呟いても聞いてくれる人間など勿論いやしない。ここは周囲数キロに渡って人家が存在しないエリアだということは、既に調査済みだ。
とはいえ、細心の注意を払う必要があることもまた事実だ。実際問題、こういう場所を狙うハンターは私以外にも居る、ということ。だってそうだろう? そんな高値で売れそうな食材、ハンターが狙わないわけが無い。
私だってこんなことをしなくともハンター経由で購入することだって出来た。そうすれば冒険家紛い(実際問題、私は本物の冒険家な訳だが)の行動を取らなくとも良い。
問題はハンターに行く巨額のマージンだ。それが小売り価格の上昇に繋がる。そこで利益を得ないとハンターとしてもやっていけないことは解るが――とはいえ些か高すぎる。マージンの値下げ、ひいては価格の値下げを交渉したことも何度かあったが凡て失敗に終わっている。それほどドラゴンは高価な食材であり、高値をつけようとも買う相手が居るということだ。
……話がズレてしまったので、本筋に戻そう。私はドラゴンを追い求め、その霊峰に向かった。霊峰の中には洞窟があり、勿論そこにはモンスターだって居た。当然だ。それくらいの危険は熟知していた。それに、そんな危険も乗り越えられないで、何が冒険家なのだ。
崖を登り、深い穴を抜け、そして――。
「着いた……」
外に出た時うっすらと東から明かりが見えたところだったから、夜明けということになるだろう。霊峰に入ったのが昼前だったのでそこそこの時間をかけたといえる。半日以上、か? まぁ、具体的な時間を述べることは正直ここでは関係ないことだから割愛させてもらおう。だって必要無いだろう? そんなことを言っても本筋には関係ない、言わば蛇足だからだ。
私は直ぐにドラゴンの巣へと向かった。調査によれば山頂の切り立った岩にあるというそれは、人間が行くには困難だといえる。
まぁ、だからといって諦めるわけにもいかないのだが。
「ええと……ロープと鉤爪はどこだったかな……?」
私はずっと背負ってきたリュックを地面に置くと、チャックを開けて中の物を取り出していた。中に入っていたものは、当然調理器具も含まれていたが、私が今使いたいものはそれではない。