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(ドラゴン)メイド喫茶にようこそ! ~異世界メイド喫茶、ボルケイノの一日~  作者: 巫 夏希
エピソード66(シーズン4 エピソード6)『そうめんとチキンカレー』
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出張ドラゴンメイド喫茶、南の孤島支店・9 (メニュー:そうめんとチキンカレー)

 出来上がった料理は何だろうね?


「メリューさん、ウキウキ気分でずっとこっちを見ていないで、出来上がった料理ぐらい教えてくれませんかね?」

「見せてやらないとは一言も言っていないだろうが。今日の料理は格別だ。何せ制限された環境で開発したメニューというのは、なかなか珍しい経験ではあるからな。修業時代を思い出すよ……全く」


 修業した経験があるんですか。

 まあ、あるだろうな――メリューさんが天才であることは間違いない。けれども、零がいきなり百になるなんてことはそう有り得ない。


「メリュー、御託は良いからさっさとメニューを」

「ティアに言われちゃあ断れないね……。ほら、見てみなさい。これが今回のメニューだよ。これを無人島でも出すつもりさ」


 そう言ってカウンターに並べられた料理――それはそうめんとチキンカレーだった。

 正確には、そうめんのつゆがチキンカレーになっている。ご飯を食べたいお客さんはどうすれば良いのだろうか――などと考えるのは愚問なんだろう。メリューさんの考えるプランにそれが含まれていなかったら、きっとそれは考慮されていないということだろうから。


「メリューさん、つまりこれって……」

「ケイタの住んでいる世界にはそうめんという細い麺があるんだよな。それとは近くて遠い食べ物かもしれないけれど……、ここにも麺があった。細くてつるつるしている麺がね。だから、今回はそれを使ってみることとした。しかし、この麺は食べてみると分かるが癖があってね……。マキヤソースだけでは食べづらいんだよな」


 それは食べろと言っていると見て良いんだよな?

 無言でそう言われているような気がして、俺はカウンターに置かれているそうめんをそのまま箸で掬って、口に運んだ。

 ……何と言えば良いだろう。引っかかりがあるというか何というか、ちょっとぬめりが強いし、香りが独特というか……。


「言いたいことが分かっただろう?」


 まあ、分かったけれど。


「でも、これをチキンカレーで中和出来るもんなんですかね? ……正直、想像つかないですけれどね」

「皆そう言うんだよ。食べてみれば、分かるから。そういった文句を言ってごめんなさいと言わせてやる」


 何の対抗心を抱いているのかさっぱり分からないけれど……。メリューさんがそこまで言うなら、食べてみることにしましょうか。料理人のプライドを無碍にする訳にはいかないし。

 そういうことでそうめんを再び掬って、今度はチキンカレーをたっぷり付けてから……、それを口にする。


「美味い……」


 思わず、口から言葉が漏れてしまう程だ。

 スパイスがたっぷり入っているからかもしれないけれど、そうめんもどきの独特な香りが消えている――流石にそれは言い過ぎか。消えているというよりかは紛れている、と言った方が正しいかもしれないな。


「ほら、言っただろう?」

「別に俺はメリューさんの料理を疑心暗鬼に食べているつもりはありませんよ……。でも、これは脱帽ですね。流石というか、何というか。これを無人島でも?」

「ああ、そうだよ。無人島でここに居るクルー全員に振る舞う。海で泳いでも良いし、日光浴も全然良いと思うぞ。まあ、遊びすぎも良くはないけれど。一応仕事で来ているのだし」


 どっちだよ。せめて方針を決めてから発言して欲しいものだけれどね。サクラなんか水着をきっと準備しているはずだよ、確実に。あいつ、絶対泳ぐ気満々だもん。



 ◇◇◇



 話が尻切れトンボのようになってしまったけれど、ここからはエピローグ。

 或いは後日談と思ってもらっても良い。

 無人島に到着してからの話があんまり特筆すべき点がなかったから、ということでもあるのだけれど、無人島でもチキンカレーを振る舞ったことだけは間違っていない。

 チキンカレーは概ね好評だった。当たり前ではあるけれど、カレーは熟成させると味が良くなる。何故だか知らないけれど二日目のカレーが美味しくなることはあるだろう。それと同じことだけれど、異世界でそれを実感することになるとは全く思いもしなかった。

 だって、異世界と自分達の住む世界では、病原体の存在が異なる訳だし、未知の病原体が繁殖して、そいつが熱に強かったら食中毒まっしぐらだ。そんなことは避けておきたいところだし、きっとメリューさんだってそれは分かっていたことだろう。

 けれども、こっちの心配をよそに、普通にチキンカレーは振る舞われ、そして全員が完食した。おかわりをする人間も出てくるぐらいだ。骨付き肉がほろほろになるぐらい煮込まれているカレーだ。不味い訳がない。

 無人島は文字通り無人なのだけれど、別荘はある。だから、あんまり不自由はなかった。電気はない、そりゃあ当たり前だ。モバイルバッテリーを持ってきていたようだから、スマートフォンの充電は問題なかったようだけれど……。どんな写真を撮ったのか、後でサクラから送ってもらうことにしよう。

 当然、そんな写真は第三者には見せられっこない。当たり前だよな、異世界の存在を第三者に暴露してしまえば、それが悪い人間に知れ渡ったらどうなるか……。ボルケイノは、悪人の手に渡ってはいけない。それぐらいは、俺だって理解している。

 そうそう、最後に一つだけ。

 無人島の海域は泳げることが出来るぐらい、穏やかな海だった。

 だけれど、サクラは泳がなかった。

 何故だと思う?

 ……答えは、鞄に入れてきたはずの水着が入っていなかったから、だ。

 あいつ、嘆いていたよ。ここで泳がなかったらいつ泳ぐんだよ、って。

 でもまあ、それもまた思い出になるから――良いんじゃないかな。

 俺はそう締めくくって、取り敢えず良い話のように仕立て上げることとするのだった。


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