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(ドラゴン)メイド喫茶にようこそ! ~異世界メイド喫茶、ボルケイノの一日~  作者: 巫 夏希
エピソード66(シーズン4 エピソード6)『そうめんとチキンカレー』
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出張ドラゴンメイド喫茶、南の孤島支店・8 (メニュー:そうめんとチキンカレー)

 船は出航し、順調に目的地へと進んでいる。木造帆船であるから、モーターや発電機といった機械は積んでいない。つまりは、風の力で進むしかないということであり、凪になってしまったらどうするべきかなどと思ったりもするのだけれど、そんなことは考えなくて良いらしい。


「凪になったらどうするか、というのは簡単だ。風の力を借りれば良い。かつてはやってくる風をただ待っていただけに過ぎなかったのだが」

「借りる? 風を生み出すとかそういった感じか?」

「……ケイタ、お前も色んな異世界を巡ってきたから、それなりに知識は身についているはずだ。そうだろう?」


 そりゃあまあ。

 俺の世界で言うところのファンタジーな知識なら、沢山身についたと思う。使えるかどうかと言われると一切使えないけれど。


「使えるかどうかは分からない……。まあ、それはその通りかもしれないな。私だって色んな世界を往来こそしているが、それが役立つかと言われるとそれ程役立ちはしない。……そういうものだよな、知識というのは」

「ところで――その風を借りるというのはどういう意味合いなんだ? 正直理解し難いというか……」

「簡単に言えば、魔術みたいな物だよ。しかしこの世界には魔術そのものは存在しない。召喚術だとか、そっちに近いかな」


 召喚術――か。また違ったジャンルの術式が出てきたものだよな。しかし幾ら何でもこうも色々と出てくると頭がパンクしてしまいそうだ。ちょっとばかし親心とかないのか?


「ある訳なかろうが。何だと思っているんだ。……まあ、元居た世界でなかった技術を叩き込まれても困るというのは仕方ないだろう。同情はしないがね」

「ストレートに言ってきますね、相変わらず……。少しは慰めてくれても良いんですよ?」

「どうやって慰めろ、と? よもや膝枕をして子守歌でも歌って欲しいなどと宣うのかな? だとしたら全力で軽蔑するよ」


 誰もそんなことをして欲しいなどとは一言も言っていないんだよなあ……。メリューさんと話をしているとどうも暴走する傾向にあるのは否めない。

 船は順調に進んでいる。有難いことに、風が吹いているからだ。その向きが正解の風向きであるかどうかまでは、若干の部外者たる俺には判別出来なかったけれど、誰も慌てていないのだからきっとこれは正解の風向きなのだろう――俺はそう解釈するしかなかった。

 聞きたくても、やはり難しいところはある――異世界の人間というのは根底の価値観が違うから、こっちが問題ない考えでもあちらからしたら危険な考えというケースが殆どだ。

 そうなると、これはもう簡単に解決出来る話ではない。

 だからメリューさんは異世界の人間である俺とサクラを一人で外に出すことは殆どしない。したとしても、顔馴染みの常連に食べ物を届けに行くぐらいだ。それでも、多くの制約を課した状態で行くことになるから、異世界観光だなんて出来るはずもない。


「異世界は危険ですからね」

「うん? いきなりどうした、そんな分かり切った話をして」

「分かり切った話だったんですか……。でもまあ、その通りではありますけれどね。実際、異世界の価値観と俺達の価値観は相容れないことが多々ありますし、それを如何にして乗り越えるかというのが――」

「小難しく考えなくて良いんだよ、ケイタ。……私達の仕事は何だ?」

「……料理を届けること?」

「そ。だから、それで良いじゃない。私達がどうであれ、お客様はやってくる。どんな異世界とも繋がる、不思議な不思議な扉を介して。どんな危険思想を持とうが、誰だって腹は減る。そして美味しいご飯を食べれば、誰だって幸せな気分になるものさ。そうだろう?」

「確かに、それはそうですけれど……」

「まだ煮え切らない感じか? 自分の中で言葉を上手く解釈出来ていない状態? ま、それも分からなくはないがね。あんまり根詰めて考えなくても良い、ってことだよ。それは理解してもらいたいものだけれどね」



 ◇◇◇



 帆船は風の勢いで移動速度が左右される。

 見立てによると、無人島の到着は夜中になるかもしれない――ということで夕飯を作ることとなった。

 材料は船にある物を何でも使って良い、しかし何を作るかはリクエストを聞くこと。


「これまた難しいお題で……」


 何故なら、ボルケイノでそれが実現出来ていたのは特殊な環境だから――という一言で終わってしまう。

 ボルケイノには、異世界とも近いような異次元空間があり、そこに数多の食材を保管している。一度俺も中に入ったことがあるが、あれは中身を知っている人間じゃなければ入ることは出来ないだろう。

 現に俺も迷子になりかけた。

 冷蔵庫のような空間ではなくて良かった、と全力で思っていたけれど。


「リクエストは?」


 メリューさんは食材とにらめっこしながら、サクラに質問した。

 リクエストを聞くのはサクラの役目だ。


「ええと、力の付く料理が十五票、スパイスの効いた料理が十五票、するするとした麺が十五票です」

「……え、それだけ?」


 見事に三分割してしまったのか?

 三つ巴の戦いをしてもらうしかないのか、それは……。


「ええ、これだけですね」


 サクラもサクラで、そうさらりと言われてしまうとちょっと反応に困ってしまうな。


「メリューさん、どれか一つに絞りますか?」

「いや……力が付いて、スパイスが効いて、するするとした麺でしょう……。うん、これにしましょうか」

「え、まさか……」

「短時間で何処まで味を作ることが出来るかは分からないけれど……、やってみる価値はあるわね。さあ、腕が鳴るわよ!」


 そうして、メリューさんは料理作りに取りかかる。

 そうなるとあとはあっという間なので、アシスタントをサクラやリーサにお願いすることにして、俺はいつも通りウェイターの仕事に徹することとした――え、シュテンとウラは何をしているのか、って? あの二人なら、こんな場所でも本ばかり読んでいるティアさんを引っ張って甲板の端っこで夜釣りを楽しんでいるよ。釣れているかどうかは、ウェイターをしながら暇な時に確認してみることにしようか。


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