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(ドラゴン)メイド喫茶にようこそ! ~異世界メイド喫茶、ボルケイノの一日~  作者: 巫 夏希
エピソード66(シーズン4 エピソード6)『そうめんとチキンカレー』
231/254

出張ドラゴンメイド喫茶、南の孤島支店・1 (メニュー:そうめんとチキンカレー)

 ドラゴンメイド喫茶、ボルケイノ。

 あらゆる世界に干渉出来る第666次元軸に存在する喫茶店は、結局の所暇だった。


「出張で店を出す?」

「いつもここに来てくれる大富豪が居るんだけれどね」


 いきなり突拍子もないことを言い出したのは、この店の唯一のコックでありドラゴンメイドのメリューさんだった。


「……大富豪がどうかしましたか?」

「自分で島を持っているんだと。その島でパーティーを開くから、コックとして来てくれないか――ってことだ」

「幾ら何でも、便利屋として扱い過ぎじゃないですかね?」


 それで何かしら利益を得ているなら未だ良いものを、案外メリューさんは人情を大事にするきらいがあるからな。そういうことは否定出来ないし、否定したところで何の意味もなかったりする。

 閑話休題――しかしてそれを言い切ったところで、俺が不利益を被ることだらけであるかと言われると、まあその通りだ。何故なら料理を作るのはメリューさんの本分だけれど、実働部隊はそうじゃない。そりゃ、たまにはメリューさん自らが前線に出ることだってあるのだけれど、現実の戦場だってそんな簡単にラスボス級の存在を出す訳がない。

 先ずは歩兵がちまちま体力を削って、或いは時間稼ぎをして、どうにかこうにかしていくのが、普通のやり方とも言えるだろう。


「便利屋も良いものだぞ、ちゃんとお金を貰えるだけ有難いと思え。それに大富豪ってもんは、大抵が金さえ払えば何でもやってくれると思いがちだからか、何でもかんでもこっちに任せてくる。門外漢だから出来ない、とこっちが言っても話を聞いてくれない時だってあるぐらいだ。……全く、困ったものだよ」


 その割には大して困っていなさそうですけれどね?


「まあ、何を言ったって事実は変わらないからな。……ごねたところで、何も変わりはしない。それだけは言っておくこととしようか。島の場所は南の島だ。何でも、そこは無人島でな……、貸し切りのビーチがあるぐらいだ。そこに誰を集めるかは知らないが、我々がゆっくり出来る時間を設けるってことは、もしかしたら家族水入らずの旅行でもするのかもしれないな」

「大富豪なら、色んな場所に行って楽しめば良さそうですけれどね。世界一周とか、結構やっていますよ」

「詳しくは知らないが、そういうのを遊び尽くしたんだろう。だからこそ、こちらにお呼びが掛かった――何故なら無人島だから、料理人も手配しなければならない、ということでね」

「そこはお付きの料理人を呼ぶという形じゃないんですね……」


 そんなにお金持ちなら居てもおかしくないしな。


「さあね? どういう理屈なのかは知らないけれど、いずれにせよ私達が行かないといけないのは事実。何故なら既に依頼を受けてしまっているからね!」


 え?

 ……いやいや、ちょっとは従業員の都合ぐらい聞いてくれても良いんじゃないですか。幾らメリューさんに決定権があるから、って……。


「はいはーい、メリューさん」

「サクラ、どうしたのかしら?」

「泳げますか?」


 えっ?


「そりゃあ聞いてみないと分からないが……。大富豪が所有している無人島だからな。それぐらい余裕だろう。ま、一応聞いてみても良いけれど」

「それなら、良いですよ」

「えっ?」


 とうとう声に出してしまったけれど。


「ケイタだってちょっとは夏がつまらないなあって思っていたんじゃなくて? ……だって、この二年間あまりにもつまらなかったと思わない? プールに行きたくても海に行きたくても、何というか閉塞感があってね……。そうして気付けば夏はまたやって来るのに、海水浴も出来やしない。別にこうやってバイトするのも悪くないんだけれどね、学生である以上夏休みは遊びたいでしょう?」

「最近出てこねえと思ったら良く喋るな、もしかして喋る力充電でも出来るのか?」

「……何を言っているのかさっぱり分からないけれど、ケイタも納得してくれているようだし、どうですか?」


 納得したっけ?

 少なくともしたような回答を言った覚えはないぞ。


「分かった。ケイタも納得しているのならば、誰も反対する人間は居ないからな。それなら、了承の返事を出しておくことにするよ。無論、海水浴が出来るように調整もしておく」

「やったー! ありがとうございます、メリューさん。海で泳ぐなんてどれぐらいぶりかなぁ……、マスクをしないで過ごせるのもかなり久しぶりかも!」


 俺達の世界では未だ感染症は蔓延していて、マスクを手放せない日々が続いている。とはいえ、国によって対応も違っていて、罹ったところで隔離もされなければマスクもしなくて良い――みたいなところもあるぐらいだから、ある種の異世界って感じがするよな。

 ボルケイノは一応異世界に該当する。なので俺達の世界の常識は通用しないし、感染対策なんてしなくても良い――が、メリューさん曰く、様々な異世界と繋がるボルケイノだからこそ感染対策をきちんとしておかなくてはならない、とのことだった。

 しかしマスクをしなくて良いし、やることと言えば精々使ったところを消毒するぐらいなので、そんなに大変ではない。一応毎朝体温と体調の確認はして、メリューさんには連絡を取っている。


「詳細が決まったらLINEで連絡するから、宜しく!」


 数ヶ月前はボルケイノでLINEという言葉を、異世界人から聞くことになるとは思いもしなかったな……。メリューさんは新しいモノが好きだ。それはまあ、数多の異世界と交流しているからこそなのかもしれないけれど、俺達が使うスマートフォンにも興味津々ではあった。

 どういう理屈なのかは分からないけれど、ボルケイノでもちゃんと電波は入っている。なので、電話とかメールが来ても問題ないし、休憩中にネットサーフィンに興じることも出来る。……ところで位置情報はどうなっているんだろうね? あんまり気にしたことはないけれど、今度やってみようかな。

 休憩中にネットサーフィンをしていたところ、メリューさんに見つかった――最初は怒られるかと思っていたんだけど、まさかの興味津々で、結局メリューさんのポケットマネーから安いスマートフォンを買うことにした。契約とか色々あったけれど、まあ、それはそれ。どうやったのかは分からないけれど、メリューさんの戸籍? はばっちりとあるらしい。それで誤魔化せるのもちょっと怖いけれど……、あまり現実的なことを考え過ぎてもいけないのだ。

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