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(ドラゴン)メイド喫茶にようこそ! ~異世界メイド喫茶、ボルケイノの一日~  作者: 巫 夏希
エピソード64(シーズン4 エピソード4)『力うどん』
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母を訪ねて何千里?・2 (メニュー:力うどん)

「どうしてここはこんなに綺麗なお店になっているの?」


 少女がご飯を食べ終えた頃には、店の片付けも殆ど終わっていた――別に終わっていようがいまいが少女が帰らない限りは店の営業は続く訳だから――要するに、俺は暇を持て余していた。


「綺麗なお店……って言ってもな。ここは特段綺麗なお店ではないよ。他の世界でも綺麗なお店はごまんとある。ただまあ、食事のバリエーションが多いのは間違いないな」

「バリエーション?」

「種類が多い、ってことよ。……そんな気にしたことはないんだけれどね、気付いたらこんなことになっちゃって」


 こんなこと――か。言いたいことは分かるけれど、メリューさんの向上心は時たま素晴らしく思うこともあるんだよな……、だってこれだけお客さんのリクエストに答えられるなら別に問題ないような気がしないか?


「……で、話を戻すけれどどうしてここに?」

「…………お母さんと離れ離れになっちゃったの」


 何か話が長くなりそうだな。

 そうは思ったけれど、一度首を突っ込んだからには話を聞いてやらねばならない。そこについては責任というか義務というか、そう言ったものも絡んでくる。


「離れ離れ? もしかしてそっちでは戦争でもやっているのか?」

「うん……。どうしてこうなったのかは分からないけれど――」


 少女はぽつりぽつりと、自分の置かれている現状を話し始めた。

 少女が住む国は、小さい国ではありながらも資源が多く存在していたために、他国から狙われることが多い国だったようだ。そんなことは少女からは何一つ聞いていないけれど、話を聞いている限りだとそんな感じがする。

 資源が多いとは言ったけれど、恐らくそれは特殊な鉱石だ。少女が見せてくれたけれど、それはその世界でしか効力を示すことが出来ないからかただの黒い石だった。

 少女曰く、その石さえあればエネルギー問題は解決しそうな代物だった。どう使えば良いのかは直ぐに見出せやしないのだけれど――多分俺の世界でそれが見つかったら戦争だけじゃ済まないだろうな。

 そういった資源が多く存在する国が、永遠に平和を保てる訳がない。結果として戦争が始まってしまい、国の多くの人間は路頭に迷ったのだろう。

 そして、その被害者が少女とその母親であった訳だ。


「……お母さんが何処に行ったのかは分からないのか?」

「うん。もしかしたら何処かに行ってしまったのかもしれないけれど……」

「確証があるのか?」

「あるかどうかは分からないけれど……、でもお母さんは何処かに行こうとしていたみたいなの」

「何処かに? 何処かって、いったい何処なんだ……?」

「ケイタ、ここで延々と話したところで埒があかない。……だったら、ここで私たちがやることはたった一つだけ。そうだろう?」

「……メリューさん、いったい何をするつもりなんですか?」


 いや、大体想像は出来ているけれど。


「ケイタ、準備しな。今から異世界へ向かうよ。なに、安心したまえ……別にケイタだけを異世界に放り込もうだなんて思っちゃいないさ。今回は魔女もセットで連れて行く。少しは安心するだろう?」



 ◇◇◇



「……それで私を呼びつけたって訳?」


 魔女と言われれば彼女しか居ないだろう。

 流離の魔女としてボルケイノにやって来てから何だかんだ従業員として働いている、魔女リーサ。こないだも寒い空間で暖かく過ごせるように魔法を蓄えた物を作ってくれていたけれど、


「ところで魔法というのはどんな世界でも使えるものなのか? 例えば、魔法という概念が何一つ存在しない世界だったなら魔法を使うことが出来ないとか……そんなことはないよな?」

「ううん、多分だけれどそんなことはないと思うよ。魔法というのは世界の概念で変わることではないと思うし。もしかしたら力が弱まることはあるかもしれないけれど……、話を聞いた限りじゃその異世界も多分魔法という概念そのものは存在すると思うからね」

「そんなものなのか?」


 案外、魔法みたいな概念があればそれを魔法と見做してしまうような感じだったりしないだろうな? それはそれで都合が良すぎる気がするけれど。


「……あれ、良く分かったね。そんなこと言ったかな?」

「言ったか言っていないかは定かではないけれど、少なくともそんな話は聞いたことはないな。……でも、有り得そうな話ではあったしな。だってボルケイノの空間は何でもあるかもしれないけれど、全部が全部存在するような空間でもないのだし。魔法みたいな概念ならオールオッケー、みたいな価値観じゃなきゃやってらんないというか……」

「本来はもう少し小難しい話になるのだけれど、そこについては話さない方が良いだろうね。いずれにせよ、魔法が使えるというのは結構楽なようでデメリットもあるからね」

「デメリット? エネルギーを使うとかそういった類の?」

「間違ってはいないけれど、そうかな。……それに、魔法を使えない人に散々魔法を話したって理解してくれるかどうか怪しいからね」

「うっ」


 リーサは時折鋭いところを突いてくるよなぁ。その辺りもう少し素直になっていただきたいところだけれど。


「……二人とも、準備出来た?」


 メリューさんが何が包みを持ってやって来た。何かな? もしかして山吹色のお菓子だったりする?


「馬鹿、そんなものを渡す人間が居ると思ってんのか。……これは昼ご飯の弁当だよ、四人分のね。使い捨ての容器を使っているから適当に燃やしてくれれば構わないよ」


 二酸化炭素とか大丈夫なんですかね、それ。


「そこよりも人数にツッコミを入れなさい。……それと燃やしても別に大気に影響は及ぼさないし、煙も出にくい素材だから安心しろ」

「あー、そうでした。……四人ってどういうことなんですかね?」

「シュテンを連れて行きなさい。あの子なら魔法が使えなくても何とかなるでしょう」

「はーい、よろしくね」


 シュテン、軽いな……。久々の登場だから浮かれているんじゃあるまいな? まあ、シュテンとウラはなかなか出る機会が少ないから目立ちたいと思うのも仕方ないかもしれないけれど。


「取り敢えず、後はどうするか任せたから。リーサ、何かあれば通信魔法を使いなさい。多分、世界が変わろうとも何とかなるはずだからね。一応この世界はどんな異世界とも繋がる次元軸。そこら辺の問題は解決出来るはずだからさ」

「はい、分かりました。……何かあれば連絡しますね」


 しかしまあ、このパーティというのもなかなか珍しい。

 まるで勇者御一行みたいな感じだ……。シュテンが魔王の呪いにかかって一時離脱とかしないだろうね?


「それじゃあ、行ってきます」


 カランコロン、と鈴が鳴る。

 とにかく行ってみなければ何も始まらない――そうして俺たちは、一歩前に踏み出した。

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