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(ドラゴン)メイド喫茶にようこそ! ~異世界メイド喫茶、ボルケイノの一日~  作者: 巫 夏希
エピソード62(シーズン4 エピソード2)『寄せ鍋(宅配用)』
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野菜をたくさん食べるには?・5 (メニュー:寄せ鍋(宅配用))

 部屋に入ると、思ったより寒くなかった。

 暖房が効いているように見えないし、そういえばこの国の王女は火の神がついているとかどうとか言っていたような気がする。もしかしてそれで暖かい部屋を確保しているのか? だとしたら酷く独りよがりで迷惑な気がするが……。

 部屋には豪華な机に椅子、本棚にクローゼットなど置かれている。悲しんでいるとは言っていたがその部屋は意外にも綺麗に整っている。

 そしてカーテンで実質的に二つの部屋に仕切られていて、その奥には恐らくベッドがあるのだろう。

 そして――誰かが居る気配があった。


「……待って」


 俺が行こうとするよりも先に、サクラが手で制した。


「どうした?」

「どうした、じゃないわよ。考えてみれば分かるでしょう、女の子と話をするならば同性が良いっての。やっぱり異性じゃ話が分からないところもあるのだし」


 そう言われれば、それもそうか。

 だったらメインの交渉はサクラにお願いすることとしよう。そして俺はただひたすらサポートに徹するしかないだろうな。

 という訳で隊列チェンジ。ここからはサクラを先頭にして俺が二番目、兵士が最後に歩いていく形にする。


「……失礼します」


 サクラがカーテンの奥へ足を踏み入れる。

 そこにあったのは、概ね予想通りではあったけれど、ベッドがあった。ベッドは天井がついていて、そこからさらにカーテンがかけられているような形になっているのだけれど、今はそれが開け放たれている。

 そして、ベッドに腰掛けている一人の少女の姿があった。


「……あなたが女王様?」


 白いレースのドレスに身を包んだブラウンの長髪の少女は、サクラの言葉にも反応することなく俯いていた。

 恐らくずっとそう居続けているのだろう。

 だが、人間がそうやっていては限界がある。人間含め生き物はエネルギーを摂取しなければ生きていくことが出来ない。植物みたいに光合成出来る訳ではないし、自らエネルギーを作り出すことも不可能だからだ。

 人間が絶食出来る最大の日数は一週間だと言われている。水を摂取しても、それが限界だとか。そうなるとエネルギーを必要とする器官から機能を停止し、やがて死に至る。

 もしかして、女王陛下はそれがお望みナノだろうか――少しでも早く兄の元へ行きたいなどと思っているのかもしれない。いち早くそうしたいのならばもっと別の手段があるのだろうけれど、それをしない理由は彼女なりの葛藤もあるのだろう。

 女王としての責務と、妹としての気持ち――その葛藤は実際に経験しなければ分からない。

 だが、その思いを汲んでやることは――少しでも軽減させるべくお手伝いすることは、もしかしたら出来るかもしれない。


「女王様? 少しは返事してくれないと困るんだけれどなあ」


 サクラは怖くないのだろうか。どのタイミングで自分が氷漬けになるのか分からないというのに――そう考えるとサクラは未だこのボルケイノの置かれている状況を理解出来ていない節があるし、だからこそこうやって切り込んで話が出来るのかもしれない。

 リスクは当然ある。けれどもそのリスクを避け続けていれば、結果もなかなか得られない。だから、サクラの考えも悪い考えではないと思う――いまいちそこに踏み込むことが出来ないのは俺の悪い癖かもしれないけれど。


「……あなたは誰?」


 漸く一言だけぽつりと呟く女王陛下。

 俺も一目顔を見ておこうと思って、そちらに近づいてみたところ――やはりえらくべっぴんだった。目鼻立ちが整っていて、目は宝石のように輝いていた。多分涙を流していたからかもしれない。実際、泣き腫らした跡も見て取れる。


「私? 私は……ただのメイドよ。あなたのお兄さんの好きなお店に選ばれたお店の、ね」


 まあ、事実だが。

 でも俺もサクラも会ったことないからさ。あんまり口出ししたくないんだよな……。変に口出しして機嫌を損ねたらそれはそれで大問題だしさ。


「メイド……?」


 ぐぎゅるるるる。

 女王陛下の言葉に続いて聞こえたのは、腹の鳴った音だった。

 それを聞かれて少しだけ恥ずかしくなったのか、顔を赤らめる女王陛下。


「あらあら、お腹が空いているのね。……さ、ケイタ、私達がここにやって来た理由を示してあげましょ。出してくれる?」


 どうしてメイドなのに偉そうなんだ。給仕しろ、給仕。

 ともあれ、ここで文句を言えば話は何一つ進まないので、俺は袋から容器を取り出すこととした。

 因みにただの容器ではない。これをそのまま火にかけることが出来る。仕組みはカセットコンロに似ている装置に容器を載せて、白い正方形の物体を下に置く。これが固形燃料になっている訳――この知識は俺がメリューさんに伝えたので、こちらの世界から逆輸入したってことになる。

 そして穴が開いているのでそこから火を灯す。マッチを使って火をつければ、後はそれを固形燃料に灯すだけ。


「……何だか変わった料理だな。それにその物質は何だ? それが燃料だというのか?」

「細かい仕組みは忘れたけれど、これの方がスペースが少なくて済むんだよな。だから、普段はこれを使っているしテイクアウトの時もこれを使おうって話になっているのだけれど……」

「?」


 おっと、異世界の知識を喋り過ぎたかな? ま、別に話し過ぎたところでタイムパトロールみたいな組織はやってこないし、特段問題ないとは思っているけれど。


「……ねえ、いったい何を見せてくれるの?」


 未だ悲しそうな表情は見せているが、こちらに対して少し気になる様子を見せてくれているらしい。それは少し安心した。

 ま、もう少ししたら煮えてくるから待っていてくれ。

 俺はその間に準備を進める。テーブルクロスを引いて、取り皿とスプーンなどを取り出して女王陛下の前に置く。そうして最後は七味だ。スパイスは何が良いのか? ってなった時にメリューさんが七味唐辛子をいたく気に入って、それからこれを愛用するようになった。ボルケイノの客の中には七味だけを買いに来る客も居るぐらいだ――あまり口外したくないので、それはお断りしているけれど。

 ぐつぐつ煮えてきたら、そろそろ食べ頃。

 良い香りが充満してきたら、蓋を開ける。

 湯気とともに、美味しそうな香りが挨拶をしてくる。


「……これは、スープ……ですか?」


 女王陛下は質問したい理性と、早く食べたい気持ちとで争っているようだったけれど、先ずは理性が勝ったらしい。


「これは、鍋という料理です。鍋には様々な種類がありますが……、これは『寄せ鍋』と呼ばれる、様々な具材を入れて煮込んだ料理のことを言います」


 実際には厳密な定義があったような気がしたけれど、そこについてはスルーする。話すのは結構大変だし、質問されたらで良いや。一応、料理の情報は事前にメリューさんに叩き込まれているし、問題はない。

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