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(ドラゴン)メイド喫茶にようこそ! ~異世界メイド喫茶、ボルケイノの一日~  作者: 巫 夏希
エピソード62(シーズン4 エピソード2)『寄せ鍋(宅配用)』
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野菜をたくさん食べるには?・3 (メニュー:寄せ鍋(宅配用))

 兵士の助けのお陰で、あっという間に森を抜けることが出来た。


「……流石にこれじゃ、現地人が居ないと脱出出来ないよな」


 森を抜けると、まるでそこからは歓迎を受けているかのように畦道が出来ていた。この森は高台の上にあるようで、下の大地を見下ろすようになっていた。そしてその見下ろした光景には、城壁で囲われている都市が見える。


「あれが……」

「城塞都市ってヤツだぜ。……俺は別に気にしたことはねえけれど、この世界では大きい街に入るんだと。しかし城塞都市を知らねえとは――何処の人間なんだよ?」


 兵士から真相を突かれた発言をされてしまったが、俺がそれに答える必要はない。答えたところで理解してもらえるとも思っていないし。


「……まあ、良いじゃないですか。遠い街に店を構えているんですよ、ボルケイノは」

「ふうん? ……ま、団長の客人だ。その辺りについては目を瞑ろうじゃないか。特段気にすることでもあるまいし」

「そう思ってくれて有難いよ」


 森を抜け畦道を通り、俺達は城塞都市の門へとやって来た。

 門は兵士の詰所が設置されていて、両端に一人ずつ兵士が立っていた。防犯のためならば致し方ないかもしれないが、重苦しさも感じる。


「そちらの人間は?」

「ただの店員だそうだ。どうやら団長行きつけのお店の人間だそうで。……まあ、何も言わないで、通してやってくれないか?」


 兵士同士のやりとりも、当然ながら翻訳することが出来る。

 ふむふむ、ノーコメントで入れるというのは、団長が相当ボルケイノを好きだということを理解してくれているのかな? だったら今回持ってきたメニューで少しでも喜んでくれればそれはそれで問題ないのだけれど。


「了解。それなら問題ないだろうよ――改めて客人よ、城塞都市へようこそ」


 そうして。

 俺達は城塞都市の中へと足を踏み入れていくのだった。



 ◇◇◇



 城塞都市を歩く人達は、誰も俯いている感じだった。何というか……未来に希望が持てていない感じだった。そりゃ俺だって毎日そんなことを思えているかは完全に肯定することは出来ないだろうけれど、しかしここの人間はあまりにも鬱屈過ぎる。趣味を奪われた人間って、こうなっちまうのかな。


「……気になったか? 料理人」


 兵士がわざとらしく俺に問いかけるので、ここは強気に出ておくべきだと勝手に解釈した。


「俺は料理人じゃねえ、しがないウエイターだよ。……料理を運んだり注文を受けることしか取り柄がないのさ」

「そう僻むな、ここの人間みたいになっちまうぜ。……この街については、何か違和感があると思わないか?」

「違和感?」


 そういえば、さっきから気になっていたんだけれど……。


「――匂い、匂いがないのよ」


 言ったのはサクラだった。

 ちくしょう、それは俺が言おうと思っていた台詞なんだぜ?


「匂いがない……そこからどう解釈出来る? 何の匂いもしない、という訳ではなく」

「普通ならこんな大きい通りで、食べ物の匂いがしない訳がない。――そりゃ、寒いから窓を締め切っているってのもあるかもしれないけれどさ、それでも違和感はあるよ。寒いなら家に入れば良い。家じゃなくとも暖かいものを提供してくれるお店に……」

「この街はな、暫く冬の女王が支配している国なんだよ」

「冬の女王?」


 急にファンタジーっぽくなってきたけれど……、あ、ここはファンタジー世界だったか。


「正確には冬の女王に『なってしまった』存在が支配しているとでも言えば良いかな。昔話をしても?」


 この長い道を歩き切らなければ、構わないさ。


「オーケイ、だったら話を始めよう。……この国はかつて、農業が盛んな国だったんだよ。穀物を色んな場所へ売って、それで様々なものを買って、生計を立てている国だった。ここは商人が集まる場所でもあったんだよな、だから最先端のものが集まっていたんだ」

「まあ、良くあることだよな。国にとっての強みを生かさなければ、国として成り立つことは不可能だろうし。……でも、そんな国がどうしてこんなことに?」


 今の雪がしんしんと降り積もる国になるには、国まるごと冷凍庫に入れないと話が成り立たないぜ。


「何故この国が農業で強みがあったか――そこについて触れる必要がある訳だよ。この国には、若き兄妹が居た。屈強な身体を持つ兄と、美しく可憐な妹だった。彼らは王族でありながら、決して偉くあろうとはしなかった。国民と同じ地平に立ち、国民と同じ苦しみを味わおうとしたんだ」

「そりゃ大層な考えだがな……、そんな上手く行くとは思えないんだよな。結局は王族なんだろ? だったら一般市民のうち誰かが王族を嫌っていてもおかしくはないし」

「ところが、彼らを嫌う国民は殆ど居なかった。……何故ならば、この国の王となる存在は代々『火の神』の力を与えられるからだ」

「……火の神?」

「その力はとても凄まじく、王の力で天気をコントロールすることが出来た。……他の国じゃ、雨も晴れ空もなかなかコントロール出来ねえってのに、この国は何故だかそれが出来た。だから良質な穀物や野菜を育てることが出来たんだよ」

「……続けて」

「そういう国だから、例え兄の方が早く生まれていたとしても絶対に王になることは出来ない。何故なら、火の神は男だからだ。男が男を見初めることはあるまい?」


 どうだか。意外とそうなることも有り得るかもしれないぜ。


「……まあ、そういうことで仮に兄弟が王に居た場合、必ず兄弟は騎士団長として王を守らなくてはならない」


 あー、それでドラゴンさんは騎士団長をやっている訳か。

 そういや、何でメリューさんは最初この人のことをハンターとか言っていたんだっけ?


「団長は騎士団長と呼ばれることを嫌っていたからな……。同じ地平に立ち、同じ苦しみを味わう――まさに王族だ。そうでなければ、騎士団長の座を務めることは出来ないだろうよ」

「じゃあ、ドラゴンさんがボルケイノに来なかったのは、仕事が忙しかったから?」


 サクラ、流石に違う。

 俺はもう何となく話の結末が見えてきたよ。


「……団長は、ボルケイノの話をしていた時はいつも嬉しそうだったよ。変わった料理を食べさせてくれるんだ、こればっかりは誰も連れて行かない、家族だけの楽しみにするんだ――と。そんな現実がずっと続いていくものとばかり、俺達は思っていたんだけれどな」


 立ち止まる。

 そこにあったのは、巨大な門だった。

 しかし、その門は氷に包まれていて、僅かな隙間こそあれど侵入者を誰も通さないようになっている。


「……ドラゴン団長は、死んだよ」


 分かりきっていることを――分かっていたことを、兵士は唐突に答える。


「唯一の兄弟を亡くしたその悲しみも、苦しみも、俺達には分からん。……だが、この国の現状を見れば、一目瞭然だ。この国は、永遠に冬に閉ざされた――そう、それこそが『冬の女王』だよ」

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