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(ドラゴン)メイド喫茶にようこそ! ~異世界メイド喫茶、ボルケイノの一日~  作者: 巫 夏希
エピソード62(シーズン4 エピソード2)『寄せ鍋(宅配用)』
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野菜をたくさん食べるには?・1 (メニュー:寄せ鍋(宅配用))

 ドラゴンメイド喫茶『ボルケイノ』。

 いかなる世界にも属することなく、いかなる世界とも往来が可能である第666次元軸に存在する空間でさえも、四季は存在する。


「……こう寒いとやる気になりませんね」


 俺は独りごちる。

 ドラゴンメイド喫茶の数少ない人間のウエイターである俺は、同じく人間のメイドであるサクラが寒そうに身体を震わせているのを見ながら、そんな感想を抱いていた。


「アンタは別に良いでしょうが、ズボン履けるんだから! こっちはメイド服ですぞー! メイド服ってことはスカートは必須。一応ソックスは長い奴履いているけれど、それでも寒さには変わりないというか……」


 一応、暖房器具がない訳ではない。

 薪ストーブがボルケイノには一台設置されているのだ。薪はいつも鬼のシュテンとウラが仲良く切っているので、俺は切られた薪を定期的にストーブに放り込むだけ。それで火の勢いが維持されているという訳。


「そんなに寒いなら薪ストーブの前に立っていれば良いのでは?」

「それだと焼けちゃうのよね……。日焼けとはまた違うんだけれどさ。ほら、学校で習ったじゃない。遠赤外線って奴」

「日焼けサロンに行き続けると内臓がミディアムになるとか、そういう都市伝説を信じているんじゃなかろうな……」


 そういう都市伝説でも一発で分かってしまうものと意外と分からないものが出てきたりするから、それを見抜くのがなかなか難しかったりするんだよな。


「……いやー、しかし厨房から出ると寒いなあ。こりゃ今日は暖まる食べ物でも食べることにしようか」


 厨房から出てきたメリューさんがそう言いながら、身体を震わせていた。


「厨房はやっぱり火を使っているから暖かいんですね?」


 でも今日のお客さんはそれなりに少なかった気がするけれど。


「寒くなると、寒冷地はなかなか外に出たがらないのよ。そうすると売上にダイレクトに直撃するからこっちとしても何か対策を取らないといけないのだけれど……。そうだ、宅配でもやってみる? この前一度だけやったことあったよね、ヒリュウさんにプリンアラモード持って行ったんだっけ?」

「ありましたね、そんなこと……。もう遙か昔のことにすら思えてきますよ」


 実際、それぐらい年月が経過しているのだろうけれど。


「行きたくない?」

「寒くなければ、何処でも」

「冬服のコート出したげるからさ、行ってきてよ」

「断る」

「手当弾むから」

「……ぐっ」


 ちょっとだけ行きたい方向に傾いたけれど、でもここで傾ききったら負けだ。


「良いじゃん、ケイタ。手当弾んでくれるんだし」


 メリューさんへの助け船を出したのは、まさかのサクラだった。

 いや、お前さっき寒いって言っていたじゃん……。


「確かに寒いところは嫌だけれどさ、ギブアンドテイクという奴だよ。手当を出してくれるのなら、デメリットは十分に賄いきれると思うけれど」


 寒冷地に出ることはデメリットだというのは、否定しないんだな……。


「じゃあ、決まり! いやー、実はね毎週来てくれているハンターのお客さん居るでしょう? あの人、今週未だ来ていないんだよね。あの国って雪国だから、もしかしたら凍死しているかもしれないし、ちょっと様子を見てきてくれないかな? って思っていたのよね」


 何だ。

 もう最初から決まっていたことなんじゃないか……。俺はそんなことを心の中で呟きながら、メリューさんからの指示を聞くこととするのだった。



  ◇◇◇



 さて。

 これからは冬支度をしなければならない。

 ボルケイノのバックヤードには冬服が大量に保管されていた――一体誰が持ってきたのか分からないけれど、それについては触れない方が良さそうだ。サイズもちょうど良いコートがあったのでそれを着用することとする。


「ケイタ、サクラ」


 声を掛けたのは、魔女であるリーサだった。

 何だか台詞を喋ったのも、随分と久しぶりのような……。


「寒いなら、これを持って行って」


 そう言って手渡してきたのは、白い石だった。これは一体? ま、リーサが渡すぐらいだからただの石ではないと思うのだが。


「それを握ると、身体が暖まるよ。中に火の魔法を込めておいたから」


 カイロをまさかこんなファンタジー全開の世界観で手に入れることが出来るとは、流石に思いもしなかった。


「……どうしたの? 要らないなら良いけれど」

「いやいや、要りますよ要ります! 絶対に使わないと死んじゃうだろ、どれぐらい寒いのか知らないけれど……」


 少なくとも極寒の世界だったら、先ずスカートを履いているサクラは死ぬと思う。

 何か防寒具を付けてあげた方が良いのでは?


「そう言うと思って、もう一つ」


 サクラに渡したのは黒い石だった。色違いってだけじゃなさそうだな。


「これをどうするの? 握れば良いのかな?」


 サクラは石を握ると、一気に笑顔に変わった。正確には、震えが止まった――とでも言えば良いのかな。


「おお……、凄い。凄いよ、リーサちゃん。これなら雪国だってこれで行けるね!」


 いや、あのー……こっちにも分かりやすく説明してくれないと困るんだけれど。


「これ、握ると足を暖めてくれる。正確には、火の魔法で出来る温風の膜が出来るとでも言えば良いのかもしれないけれど。メカニズムについては説明した方が良い?」


 いや、魔法のことをあーだこーだ言われてもシンプルに理解出来ないから、良いよこのままで。

 それにしてもいつの間にこんなアイテム作っていたんだか。もしかして最初から俺達を寒い場所に行かせるつもりでメリューさんが考えていたとか? だとしたら後で問い詰めてやる。


「おっ、準備出来ているようだな。こっちも万端だから」


 フロアに戻るとメリューさんが既に料理の入った袋を準備してくれていた。


「場所は袋に入っているメモを見てね。じゃ、ヨロシク。代金もそこに書いてあるから。ないと思うけれど踏み倒すつもりなら一生追い詰めると言ってやれ」


 何の武器も持たない人間にそれを言わせるつもりですか?

 とまあ、そんなことを長々と言っても致し方ないので、取り敢えず扉の前へと向かう。

 この扉は、数多の異世界とこのお店を繋ぐワープホール。

 誰が開発したのかも、どういうメカニズムなのかも分からないから、これが壊れた時にはボルケイノは終わりを迎えることになるし、俺も元の世界に戻れなくなる。……正直、そんなことはあって欲しくないので、考えたくないのだが。


「それじゃあ――行ってきます」

「行ってらっしゃい」


 扉を開ける。

 そして、俺達は見知らぬ異世界へと向かうために――一歩足を踏み入れた。



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