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消毒は大事なプロセス・後編

「検疫も進めたところでどうか……って話もありますけれどね。緊急事態宣言のおかげ……と言っちゃ何なんですけれど、色々と進化を遂げたものもありますし。その辺りは一長一短と言っても差し支えないとは思いますよ」


 まあ、それを言ったところでどうなるんだ――なんて話もある。実際、進化を遂げたというか変化を遂げたと言った方が近しいかもしれないけれど、少なくともITが一気に日常のスタンダードにのし上がってきたのは感じられる。今までは、何処か遠い未来に思えていたのに。未来の猫型ロボットが出来る日も近いかもしれない。

 とはいえ、いくら何でも暇すぎる……。予想はしていたけれど、ここまで人が来ないとなるとそれはそれでどうなんだ。


「おかしいねえ……、いつもならこの時間は色々とお客さんがやって来るはずなんだけれどな。ま、そんなこともあるわな」


 メリューさんはお客さんが来ないことを意に介さず、厨房へと向かっていった。

 ということは、そろそろお昼時。


「それじゃあ、そろそろ準備しますかね……」


 お昼時までお客さんがやって来ないのは、珍しいと言えば珍しい。

 けれども、それもまたこのボルケイノらしい。


「メリュー、今日のご飯は何?」


 ずっと本を読んでいたティアさんが、急にメリューさんに問いかけた。

 メリューさんは首を傾げ、


「おや、ティアがそう言うのは珍しいな……。明日は雨が降るかな?」


 そもそも、このボルケイノがある時空に天気って存在するんですかね?


「天気はあるだろ……、だって一応畑もあるんだし。ケイタが知らないだけだ」

「え? それほんとうなんですか。確かに言われてみるとあまり気にしたことがなかったような……」


 いつか畑仕事に精を出す日が来るんだろうか。

 来ると良いなあ、最近は外で畑仕事なんてやりたくても出来ないし。密になるから。


「何処をどう捉えれば畑仕事で密になるんだ……?」


 なるんですよ、それが。

 あの国は土地が狭いですからね。


「……よし、取り敢えず今日のお昼は何にしようかねえ。ダッカー鶏があったっけ? あれを使おうか」


 ダッカー鶏とは、何処かの世界で使われている軍鶏のことだ。肉質が硬く、そしてスープとしても出汁が出る。だからラーメンとかに使うと最適のような気がするのだけれど……、残念ながら異世界で使う物はあちらの世界には持ち込んではいけないのが暗黙の了解である。

 まあ、何か変なことが起きたら面倒臭いし、責任も取れないからね。こればっかりは仕方がない。でも、ビジネスチャンスと捉える人は絶対居るだろうなあ……。あちらの世界では手に入らない物を、独占的に高値で売りつければ大儲け出来るんだし。今頃億万長者も夢じゃないかも。こんなこと言うと、メリューさんに叱られそうだけれど。


「ダッカー鶏は、どう使うんですか? 丸焼きにしても美味しいですよね」


 というのも、過去にダッカー鶏の丸焼きが賄いで出てきたからだ。鶏の丸焼きが賄いで出てくる料理店って他にあるか? 少なくとも、俺の経験では知らないな。


「ダッカー鶏は既に蒸してあるんだよね。要するに蒸し鶏って奴だ。だからこれを使って――」


 厨房へと向かっていくメリューさんの足取りは軽い。

 こうなると後は手に負えない――というのは言い過ぎか。

 どちらにせよ、料理が出来るまでは然程時間もかからないだろうし、俺達はただそれが出来るのを待つしかないのだ。

 強いて言うなら、お客さんが来ないことを祈るばかりだ。



  ◇◇◇



「出来上がったよ!」


 メリューさんのその言葉を聞いて、俺は急いで厨房へと向かう。

 そして厨房の机上に置かれている皿の中を見て、俺は納得するのだった。


「これは……冷製パスタ?」


 海のようにスープがお皿に満たされていて、そこには油やハーブが浮いている。

 そして、真ん中には島を形成するようにパスタが盛られていた。

 パスタの上には、ダッカー鶏を解した物が幾つか置かれている。


「うん、美味しそうですね……」

「私が作る料理はいつだって美味いんだよ。それぐらい分からなかったのか?」


 分からないつもりはなかったですけれど。

 そりゃあ、多くの世界にファンを持っているメリューさんですからね……。


「味付けはシンプルにしたんだよ。何せ、ダッカー鶏はかなり濃厚な出汁を出すからな。塩とオイルだけで充分、良いパスタソースになった。でまあ、どうせ食べるなら冷製パスタにするのが良いかな? なんて思ったりした訳だが、駄目だったかな?」

「別に駄目だなんて一言も言っていないですよ。寧ろ、予想外というか……」


 鶏をそのまま使うなら、棒々鶏とかにするのかとばっかり思っていたから。


「棒々鶏なあ。一回やってみたけれど、どうにもイマイチな味付けになっちまったんだよな。だから、今回は失敗したくないから、冷製パスタにしてみた」

「メリューさんも失敗するときってあるんですね……」

「あるよ、それぐらい。さ、食べるぞ。冷めないうちに……って、冷製パスタだから既に冷えているか」


 何ですか、それジョークの一種?

 と言いたかったけれど、きっとそれを言ったところで、メリューさんに何か言われそうなので、取り敢えず無視する。急いでそれを食べてしまおう。なくなりはしないだろうけれど、いつお客さんが来てもおかしくないし。

 暇な日だけれど、こんな日があっても別に良いよな――そう思った一日であった。

 


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