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不穏な気配

 予兆はなく、そして唐突にそのときはやってきた。


「なあ、ケイタ」


 カウンターを拭いていると、いつもキッチンにいるはずのメリューさんが声をかけてきた。


「どうしたんですか?」


 作業をしている手を止め、俺はそちらを見た。


「ケイタは昔からここに居るから知っていることだと思うが、ボルケイノはどうしてここに存在していて、そしてどうして私がシェフとして腕を奮っていると思う?」

「……そりゃあまあ、知っていますよ。確か、竜の呪いで、」


 ――竜の呪いで、人々に笑顔を届けることを命じられたから。

 その呪いを解くには、人々に笑顔を届け続けなくてはならない。それは途方もない目標であり、終わりの無い目的だった。


「そう。竜の呪いで私はドラゴンメイドに姿を変えて、そして今ここに居る。つまり私がドラゴンメイドたる所以は柵、あるいは罰と言ってもいいでしょうね」

「……それがどうかしたんですか? 急にそんなことを言い出すなんて」

「いいや、少し言いたくなってね。例えばの話だけれど、枯れる草木が己の運命を未来予知していることなんて、万が一にも有り得ないことだろう? それと同じ事だよ」

「……どうなんでしょうね。意外とあっさり予知していて、受け入れているかもしれませんよ? これが運命。これが寿命。ならばその種を残すこともまた宿命、って……ちょっとくさい言い回しかもしれませんが」

「ま、そう思うのも仕方ないかもね。……で、なんでこの話になったんだっけ?」


 え、それを言い出すか?


「メリューさんが突然話を始めたんじゃないですか。確か、このボルケイノを続けている理由を聞き出して……」

「ああ。そうだったか」


 メリューさんはまるで俺の話を聞きたくないかのような感じで、話に割り入った。

 手を振って踵を返すと、


「まあ、さっきの話はなかったことにしてくれ。……休み時間の、ただの暇つぶしだと思ってくれればそれでいい」

「そんなもんですか」

「ああ、そんなもんだ」


 メリューさんがキッチンに入ろうとした、そのとき――。


「また、消えないで下さいよ」


 俺は、無意識のうちに言葉を発していた。

 その言葉は、堰を切ったようにどんどんぼろぼろ零れていく。


「またあの頃みたいに……あの頃のように、勝手に消えていなくならないでくださいよ! 俺はここにいて、とてもやりがいを感じているんです。メリューさんと、シュテンとウラ、サクラにリーサ……それにティアさんも。皆がいてボルケイノは成り立つんです。また、メリューさんが居なくなったら、俺は……」

「ケイタ。済まない、そんなつもりはない。ただ話をしたかっただけなんだ。もし変な風に誤解してしまったなら謝る。ほんとうに済まなかった」


 メリューさんは大慌てで頭を下げる。

 対して俺もどうやってこれを収集づければいいのか分からず、あたふたしてしまっていた。

 これは、そんな営業時間外の一幕であった。

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