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名状しがたい黄衣の王・5 ~ドラゴンメイド喫茶"if"~

「何だ、この料理は……。とても美味い」


 黄衣の王は呟くように、小さい声でそう言った。

 けれどその声は俺に届くくらいのトーンだった。


「美味しいでしょう、ここの料理は」

「……ああ。そうだな」


 黄衣の王は食べ進めていき、最後には完食してしまった。

 そして、黄衣の王はぽつりと呟く。


「……思い出したよ、マスター」

「へ?」


 突然何を言い出すのか、そう思っていたら、少しの沈黙ののち、黄衣の王は言った。


「私は王ではない。私は……邪神だ。邪神ハスター。そういえば聞いたことはあるのではないかね? まあ、マスターの世界がどういう世界なのかははっきりとしないが」


 ハスター。

 黄衣の王改めハスターは自らをそう名乗った。


「……まあ、別に知ってもらう必要なんてない。ただ私は忘れていた記憶を思い出しただけのこと。ただそれだけの話だ。有難う、とても有意義な食事だった」


 そう言って、ちょうどのお金を置いて、ハスターはボルケイノから出ていくのだった。



◇◇◇



 エピローグ。

 というかただの後日談。

 メリューさんはどこまでその事実を知っていたかというと、やはり来た段階で黄衣の王イコールハスターという事実は知っていたらしい。


「黄衣の王はハスターの化身ともいわれているからね。でも何か様子がおかしいから、蜂蜜酒を料理にちょいと加えてみたんだ。さすがに料理と酒を出すわけにはいかなかったからね。だから、ほのかに甘かったかもしれない。その甘い香りと味が……彼にハスターとしての記憶を取り戻したのかもしれないな」

「つまり、ハスターはずっとハスターの記憶を失っていた、と?」

「化身とはいえ、黄衣の王という化身をずっと演じ続けた結果なのだろう。最終的に自分がハスターということを忘れてしまい、黄衣の王という王の記憶だけが残る。しかし、そんな簡単に物事が上手くいくわけがない。黄衣の王が持つアイテムというのは、人々に不幸を齎すアイテムであるからね」


 メリューさんは言って、残り物のチキンライスを頬張った。


「うむ。やはり蜂蜜の香りが強いな。仕方がないことといえば仕方ないかもしれないけれど……。うん、風味づけに蜂蜜酒を入れるのは無しにしようか。いいチョイスになると思ったのだけれどなあ」


 そう言ってメリューさんは片付けもせずにすたすたと奥の休憩室へと向かった。

 相変わらずメリューさんの知識の底が見えない。そう思いながら俺はまだ残っている仕事を片付けにカウンターへと戻るのだった。




 ここはドラゴンメイド喫茶、ボルケイノ。

 不思議なお客さんばかりが集まる、異世界唯一のドラゴンメイド喫茶だ。

 さて、それでは。

 またのご来店をお待ちしております。良い一日を。



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