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名状しがたい黄衣の王・3 ~ドラゴンメイド喫茶"if"~

 話を戻そう。

 それがあったのは、私の屋敷にあった池の底だった。当時、私の国では水が貴重なものであったが、屋敷の裏には滾々と湧く水源があったから、そこに池が出来るのはとても自然のことだった。

 最初はそれが誰かが捨てたゴミだと思っていた。

 だが、違った。

 それは瑪瑙で出来たものだった。留め金、とでも言えばよいだろうか。

 最初はとても綺麗なものだと思っていたよ。だからこそ、私はそれを拾ってしまった。

 次の日から私はそれをつけてみた。装飾品の一つとして飾ってみることにしたのだ。現にその瑪瑙はとても綺麗だったし、私の士気を高めることも考慮してみた、ということだった。

 最初の何日かは特にどうでもよい日々が続いていた。正確に言えば、何も変わらない一日だった、と言えばいいだろうか。

 私にとって素晴らしい一報が流れたのは、それから数日後のことだった。

 大臣が死んだ。流行り病だった。

 それは私の政に対し唯一批判している大臣だった。だからこそ、私にとってはまさに目の上の瘤がとれた形となり、とても清々しい気分だった。

 だが、そこで浮かれてしまったのが間違いだったのだろう。今思えば、そこで恐ろしいと思ったほうが良かったんだ。

 どういうことか、って? 簡単なことだ。自分を嫌っていた人間が、自分が死んでほしいと思ったとたんに死んだ。しかも、その前後にあったことと言えば瑪瑙の装飾品を拾ったこと。普通に考えればそれがおかしいと思うのは当然だろう?

 ……話している内容が少々ずれてしまったから戻ることにしよう。大臣が死んでしまってからの私は、とても順風満帆に進んでいるように見えた。まるで大臣が順風満帆を邪魔していたかのようだった。

 だからこそ、私は気付かなかった。

 流行り病が徐々に国を蝕みつつある、ということに。

 はじめに私の嫁が死んだ。次に、妹が死んだ。母親が死んだ。国の重鎮が死んだ。国民にも被害が出てきた。

 私はどうにかしてそれを食い止めねばなるまいと力を尽くした。けれど、結局それはダメだった。終わってしまった。

 どういうことか、って?

 そんなこと、もうとっくに解り切っているのではないかな?

 私の政はうまくいっていたよ。

 ただ、それだけのこと。

 私の地位が揺るぐことは無かったかわりに、周りが酷い状態になっていった。流行り病で人は死に、戦争に勝ったものの国は貧弱になり、結果として私にとって良い方向には進んでいかなかった。

 では、なぜそうなってしまったのか?

 私は真剣に考えた。

 そして、あるものを、ある可能性を考えた。

 私がつけている瑪瑙。

 それが原因なのではないか、と。

 君の感性はどうなっているのか知らないけれど、もし何かあったとき最初にそういうものを疑うものだ。もし何か拾ったらそれに呪いがかかっている可能性だって十分考えられるわけだからね。

 だから私はそれを捨てたかった。拾った場所で捨てようと思った。

 だが、それを捨てることは出来なかった。捨てようとしても、何度捨てようとしても、それを捨てることは出来なかった。

 なぜだったのだろうか。

 捨てたくてもなぜだか捨てることは出来なかった。けれど、私は捨てたかった。どうすればいいのか解らなかった。

 そんな時だった。私の耳元で何かが囁いた。


「それを捨てるなんて勿体ない。それに、それを捨てることは出来ない。永遠にずっと、苦しむしかない」


 その声を聴いて、私はそれを捨てたかった。

 とてもその声が恐ろしかった。

 けれど捨てられなかった。その声の通り、何度それを捨てようとしても手から離れようとはしなかった。まるでそれと私がくっついているかのように。

 暫くして、私はそれを諦めた。

 崩壊していく国を、私はただ見つめることしかできなかった。

 そして私は国を大臣の中から一人選出した人間に譲り、逃げるように国から去っていった、ということだ。

 それが国にとっても、私にとっても、一番良い選択肢だと思ったからな……。その時の私には、それしか考えが浮かばなかった。


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