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名状しがたい黄衣の王・2 ~ドラゴンメイド喫茶"if"~

 カウンターに戻り、水を提供する。

 無言でグラスを傾け、水を飲んでいく。一応、言及しなかったから解っているとは思うかもしれないが、仮面はつけたままだ。つけたままでよく水が飲めるな、って思うのだけれど、まさか食べ物もそのまま食べるつもりじゃないだろうな?


「……ありがとう。少し回復したよ。水を飲むだけでここまで回復するとはな。私ももう少し勉強する必要があるかもしれない」


 それってただの水分不足だけだったのでは?

 そんなことはもちろん言うことは無かったけれど、俺はそうとしか思えなかった。だって声のトーンもちょっと戻った感じがするし。もちろん『戻った』と言ってももともとがどういう様子だったのかは知る由もないのだけれど。


「……それにしても、まさかこのようなところに店があるとはな。それも立派な……」


 このような場所、と言われても実のところこの店が実際にどの場所に位置しているのかは定かでは無い。

 この店がある空間自体が異世界となっており、扉が繋がればどんな異世界からでも辿り着くことが出来る。そう見るとけっこう都合のいい設定と言われるかもしれないが、残念ながら俺がこの喫茶店にバイトとして入ったときからそんな設定があったので、都合のいい設定としか言いようがない。


「……私はある王国の王だった」


 そして、黄衣の王は自らのことについて話し始めた。

 きっとこれからは俺を話者にするのではなく、黄衣の王を話者にしたほうが、きっと伝わりやすいだろう。

 そう思って俺は、聞き手にチェンジすることとなった。



◇◇◇



 その王国はとても豊かな王国だった。資源も多くあり人々には笑顔が絶えなかった。

 その王国を統治していたのが、当時の私だった。私は偉大なる父から王位を引き継ぎ、政を執り行っていった。最初は父に助言をしてもらっていたが、人間には必ず寿命がある。だから私は、父が遠からず死んでしまうことを知っていたから、助言をなるべく聞かないように、徐々にその頻度を減らしていくこととした。普通に考えてみれば解る話ではあるかもしれないが、助言を求めれば求め続けるほど、その依存度は増していくものだ。それを理解していたからこその行動だったと思う。

 それも父は理解していた。父は頭が良く、優秀だった。だからこそ、あの王国を作り上げたと言っても過言ではないのだが……。まあ、それはそれとして、私は父の助言を得ることなく、なるべく自分の手で政を執り行うように勉強した。

 しかし、父というしがらみを失った周りの大臣たちは、私を蔑むようになった。……いや、その発言は少々間違いかもしれないな。正確に言うと、大臣は私の言うことを無視するようになったのだよ。ある種、簡単な反逆かもしれなかったがね。

 では、それをどうするべきか?

 それで屈する王であっては、国を統治することなど夢のまた夢だったからな。先ずは、言葉で解決することとしたよ。でも、それでも無理だった。先ず、話を聞いてくれるはずがなかった。そんな単純に話を聞いてくれるようだったら、そもそも私の言うことを無視することなどしないはずだった。

 かといって武力でものを言わせてしまうのは駄目だった。悪い前例を作ってしまうわけにはいかなかった。国王は武力で自分の考えを思いのままにしてしまうとは思われたくなかった。

 では、どうすればよかったのだろうか?

 私はずっと考え、悩み、眠れない日々が続いた。

 ……『それ』に出会ったのはそんな時だった。



◇◇◇



「……それ?」


 そこで俺は初めて相槌以外の言葉を放った。

 黄衣の王は頷きつつ、俯いた。

 黄衣の王の目は――仮面の向こうの目は――どこか悲しそうな目をしていた。

 そして、黄衣の王はぽつりと一言言った。


「……もし、それに出会うことが無ければ私はどうなっていたのだろうか? 今となっては、もう誰にも解らない話なのだが」


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