お姫様の家出・2
更衣室で着替えを済ませて戻ってくると、メリューさんは料理を一品完成させていた。
相変わらずの早さだといえるけれど、問題はその料理だった。
「……肉じゃが、ですか?」
「あの国の郷土料理ってなんだか知っているか?」
あの国、ってもちろんミルシア女王陛下の居る国のことだよな。
だとすればあの国の郷土料理は確か……。
「野菜と肉の炒め物……でしたか。確か」
「その通り。まあ、それにはきちんとした名前が無かったから、今回は便宜上、お前の国で親しまれている『肉じゃが』を作ってみた。どうだ、昔と比べて味は近づいたかな?」
よく見てみるとお盆の隣には小皿が置かれている。その小皿にも肉じゃがが少量入っている。もしかして味見用にそのまま置かれているのだろうか。
そう思って俺は質問しようとしたが、
「どうした、ケイタ? そこにある小皿が見えないか」
質問する前にメリューさんから『食べて良いぞ』という言葉をいただいたので、有難くそれを受け取ることとした。
小皿を手に持ち、箸を持った俺はそのまま箸を構えて、馬鈴薯を箸で切った。
口に入れると、ほくほくとした馬鈴薯が口の中に広がった。
それだけじゃなくて、マキヤソース仕立ての味がよくしみている。そういえば俺の世界で食べていた肉じゃがは醤油に砂糖、味醂を上手い具合に入れていたんだったか。これはマキヤソースをメインに味付けしているのだけれど。
「これ、マキヤソース以外には何を使っているんですか?」
「メロウスというお酒を使って、あとは砂糖かな。ああ、でもアルコールは飛ばしているから安心してね。メロウスを入れると香りが良くなるし、味がまろやかになるのよね」
「メロウスって、どんなお酒なんですか?」
「お米のお酒だったかな。でも普通に飲料用に使うわけでは無くて、料理用に使うものなのよね。飲んでもいいけれど、まあ、いずれにせよ未成年のあなたにはまだまだ早いものね。ちなみにミルシアの国も十八までは飲酒が出来なかったはずだから、彼女にもあげちゃだめよ」
なるほど。やはりレシピはほぼ同じらしい。ということは俺の世界と同じような味覚がメリューさんにもあるということになるのだろう。
ぼうっと考えていると思われたのかメリューさんに肩を叩かれ、そこで俺は我に返った。
「さあ、冷める前にこの定食をミルシアに持って行ってあげて。きっと、お腹が空いているでしょうから」
言われるまでも無い。
俺はそう思いつつもメリューさんの言葉に従う形でお盆を持ってカウンターの外へと向かうのだった。