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食材とスパイスと、もう一つの価値・中編

 メリューさんの料理がやってきたのはそれから五分後のことだった。その間料理が来ないとかコーヒーが温いとか机が汚いとかいろいろ文句を言っていた。そして文句を言うたびにメモしていた。律儀だし、人の汚点とか欠点を探しまくっている人間だ。きっと、友人もいないんだろうよ。こんな人間、普通に嫌う人がたくさんいてもおかしくないタイプだ。


「お待たせしました、料理となります」


 メリューさんが出したのは茶色の海に沈む赤、白、茶の素材。そして広がるスパイスの香り。茶色の海と対比して真ん中にある白い島。



 ――そう、カレーライスだった。



「……なんだ、これは。ただのカレーライスではないか!」


 それを見て憤慨する男。ならばいったい何の料理なら満足したというのか。



 ――というか、メリューさんはこの男が食べたい料理を作ったわけじゃないのか?



 メリューさんは男の反応を予想していたかのように、微笑む。


「ええ、そうですよ。これはただのカレーライスです。ですが、私が丹精込めて作り上げた逸品となっております。時間も手間もかけたものです。味には絶対の自信があります」

「そういうことを言っているわけじゃない! 普通の食材に、普通の味付けだろう!? 所詮、このような店で出しているものはその程度のものしかできない。『丹精込めて』など言い訳がましく言っているのがオチだ!」

「では、お食べください」


 メリューさんは食い下がらない。


「だから私は――」

「食べていただければ、解ります。それでもし不味いようであればあなたの書く記事にこの店の酷評をしていただいて結構です」


 メリューさん、さすがにそれは言いすぎじゃ……。

 でも、店主のことだからそれは即ちこの店の発言と同一になる。だからそれを俺が覆すことなんて、できない。

 そしてメリューさんの発言を聞いた男は、スプーンを手に取ってライスの島を少し崩してカレーの海へと浸す。それをスプーンで掬い、口の中に運んだ。

 最初は半信半疑――どうやらそんなに美味しいとも思わなかったのだろう――のような表情を浮かべていたが、食べて少しして目を見開いた。

 衝撃を受けた、のだろう。


「なんだ、このカレーは……。ありえない、ありえないぞ! 普通の食材、普通のスパイス、普通の調理法のはずだ! にもかかわらずこのカレーは、高級店にも引けを取らない! まさか、そんな馬鹿な……」

「高い食材で高いスパイスを使って、美味い料理ができる。そんなものは、当然なんですよ」


 メリューさんは言った。


「重要なのは愛情なのよ。料理を食べてもらう人の笑顔、料理を食べてもらう人が、それを食べてもらうことで喜んでくれる……そう思えば、食事なんて簡単に美味しくなる。高い食材を使って不味くさせるほうが、ある種の才能と言ってもいいほどに」


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