魔女学校からの刺客・2
「……どうしました?」
「いいからとにかくリーサを呼んで来い。あと、お前はどうにか時間をかせげ。ちょっと今から色々とやらないといけないことがあるから」
「はあ。わかりました。変なことだけはしないでくださいよ」
「私が変なことをするとでも思っていたのか、お前は」
ええ、十分に考えられますよ。
とまあ、そんなことが言えるわけもなく、俺はリーサを呼ぶことにした。そしてメリューさんと合流し、そのままキッチンへと消えていった。
「お待ちなさい! まだ話は終わっていませんよ」
「……あなたは、ここに何をしに来たのですか」
さて、ここからは俺の時間稼ぎタイム。
どうにかしてリーサが戻ってくるまで、機嫌を損ねないようにしないといけない。さあ、どこまで抗えるだろうか。
「何をしに来た、って……。マスター、聞いていて解らなかったのか。私は彼女を魔女学校に連れ戻しに来た」
「客としてやって来たわけではない、と?」
それを聞いて、何も言えなかったアルフィア。
俺はさらに、話を続ける。はっきり言って、こういう人間は客商売をしている上でみると迷惑だ。
「客としてやってきていないなら、さっさと出て行ってもらいたいのだけれど。はっきり言って、こちらも暇ではないので」
「……その割には、すいているようだが?」
うぐう、ここでそれを言ってくるか。というか、それを躊躇いなく言えるということは性格が捻じ曲がっているな。また近いうちに対立しそうだ。
はてさて。
これからどうやって対処すればいいものか。問題と言えば、いや、正確に言えば問題だらけだからどうにかしてここから出て行ってもらいたいものだけれど、この性格からして一筋縄ではいかないだろう。
「……それにしても、こんな寂れた店にどれ程の価値があると見込んだのだろうか、あの魔女見習いも」
「魔女でしょう、彼女は。まぎれもない魔女ですよ」
俺はそこで思わず反論していた。あくまでも、トーンは普段のトーンと変わらないものだったけれど、いつ怒気を見せてもおかしくないくらい、俺の感情は爆発寸前だった。
俺の感情――その沸点が低いわけではない。問題は、今まで共にしてきた仲間のことを無下にされているから、かもしれない。
俺はとにかく感情に任せるつもりはなかった。
ではどうすればよかったのか?
答えは単純明快。
「……魔女だから、どうだっていうんですか」
「はあ?」
「確かに彼女は魔女ですよ。でも、だから何だと? 寂れた店だから何だって言うんですか。全部価値があります。あなたには到底解らないものであったとしても、価値は価値です」
それを聞いた女性は一笑に付し、
「何ですか? 怒っているんですか。……まったく、低俗な存在ですね。店も低俗なら従業員も低俗ですか」
「なにを……」
もう我慢できなかった。
ずっと言わせておけば、と思っていたがもう我慢など出来るはずがない。
いや、そもそもの話――客商売では一つ暗黙の了解がある。
暗黙の了解というよりも、それは誰しもが知っているようなルールになるのかもしれないけれど。
お客様は神様である。
それは、決して客側が言っていい発言ではない。お客様は神様という言葉は、そもそもとある歌手が発言した言葉だと言われている。客席に立つお客様を神様だと考えて、雑念を取り払うことで、最高のパフォーマンスを実施することが出来る。だから、お客様は神様である――そう言われている。




