ダークエルフとその一行・結
エール瓶とグラス、それにお通しを持っていくと、ダークエルフの兵士は若干苛立っているように見えた。
「何だ、遅かったな。てっきりエールが無いのかと思ったぞ」
「遅くなってしまって、申し訳ございません」
「いやいや。別に問題は無いよ。……おい、みんな! エールが来たぞ!」
「隊長、数が未だ全然足りないですよ!」
「それもそうだったな! いや、ゆっくり待つがいい。このお店はそういうゆったりと流れる時間を楽しむ店だから」
これは急がねばならないな。そう思って俺はバックヤードへと戻っていくのだった。
エールが全員に行き渡るまで、それからそう時間はかからなかった。
「それじゃ、乾杯!」
隊長と呼ばれた女性が声を上げると、みな並々にエールを注いだグラスを上に上げた。そういえばこの文化は俺の世界でも使われている文化なので、酒飲みに関する文化は度の世界でも変わりないんだろうな、と俺はふと思っていた。
エールを片手にお通しを続々食べ始める隊員たちは、笑顔で包まれていた。
それを見ると、少しだけほっとした。塩辛ってそこまで異世界の人間に愛されているのだと、少しだけ安心した。俺の世界でも若干独特な風味があったので、好き嫌いがある食べ物の代表格だというのに。それとも、エールによくあうおつまみということなのだろうか?
「ケイタ! 別の料理が出来たから、急いでキッチンに来てくれ!」
「解りました!」
俺は客席に一礼して、そのままキッチンへと再び戻っていった。客席は徐々に盛り上がっていき、それとともに酒の香りがほんのり部屋を満たしていくようになっていった。
二時間もすれば、全員が潰れているか或いは酔いが回ってきたのか落ち着いた感じで話をしていたかそのいずれかになっていた。
隊長と言われていた女性は、独りでゆっくりとグラスを傾けていた。
「……もうこんな時間か」
隊長は時計を見つめてそう言った。
「勘定をしてもらえるかな」
「はい。こちらになります」
俺は紙を差し出す。俺の世界でいうところの伝票だ。ボルケイノではあまり伝票を使うことは無いのだが、このように大量の注文があった場合は備忘録的な意味も兼ねて伝票が使われる。とはいえ、手書きで書いているので、そのあたり誰にも読めるような字で書かねばならないし、かなり丁寧にやらないといけないところではあるのだが。
伝票を見て隊長は何回か頷くと、腰につけてあった袋からちょうどの枚数の金貨を差し出してきた。
俺はそれを受け取ると、「ありがとうございました」と一言だけ告げる。
同時に踵を返すと、隊長は何回か手を叩く。
「さあ! 宴会は終わりだ。時間もそろそろいい頃合いだし、もう帰ることにするぞ!」
それからはあっという間だった。
隊長と呼ばれた女性の指示によってものの数分で片づけが終わり、続々と帰っていった。
最後に隊長は笑みを浮かべて、俺に一礼してボルケイノの扉を閉めていった。
何というか、嵐が過ぎ去ったような、そんな静けさを――俺は感じながら深い溜息をひとつ吐くのだった。