ダークエルフとその一行・転
シュテンとウラは今日お休みだ。とはいっても彼女たちの家はボルケイノの裏にあるバックヤードで、正確に言えばその部分はメリューさんとティアさんの家でもあった。
そのためお休みであったとしても、食事は通常営業のボルケイノで食べることになる。とはいえ、通常営業中のお店で料理を食べるわけにはいかないから、メリューさんが適当なタイミングで料理を作って、それを誰かが運ぶ――といった形だ。
「シュテンちゃんとウラちゃんは、ほんとうに仲が良いよね」
「……同じ里で育ったらしいからな。詳しいことは知らないが」
シュテンとウラについては、知らないことばかり――というのが正直なところだ。なぜなら彼女たち自体あまり昔のことについて語りたがらないから。それが本音であった。
しかしながら、俺からしてみれば、共同生活をしている以上、いつかは少しでもそのことについては語ってほしいと思っている。それはもちろん、シュテンとウラが俺たちのことを信頼してもらえるかどうかにかかっているわけだが。
「まあ、それはいいや。で? どうしてあんたがこの通路に居るわけ? まだ仕事は終わっていないはずよね?」
「ああ、そうだ。保冷庫から酒をもってこようと思っているんだ」
「ああ、お客さんがやってきたのね? ……どうせ大量に持っていくんでしょう? だったら、私も手伝うわよ」
「……それは有難い」
お言葉には甘えたほうがいいだろう。そんなことで、俺とサクラは一緒に保冷庫へと向かうのだった。
◇◇◇
保冷庫から戻って、エールをケースごと持ってきたところで、メリューさんが俺たちを見て、こう言った。
「あら。サクラも手伝ってくれたの。台車とか使えばよかったのに」
「それも良かったんですけれどね。ちょうどサクラが居たものですから」
「だからって、女の子にエールのケース持たせるのはどうかと思うけれど?」
「いいんですよ、メリューさん。ケイタはいつもこんな感じですから」
「まあ、サクラが言うなら別にいいけれど……」
メリューさんはそう言って料理を作り始める。
俺たちに背を向けたまま、メリューさんは思い出したように話を続けた。
「そうだ。急がないと、お客さんが苛立ってしまうぞ。……水は出しているが、酒とお通しも出していない状態なのだろう? だったら猶更急がねばいけない。それくらい、理解しているよな?」
それはもう重々承知しています。
俺は急いでエールの瓶とグラスを二つ盆に置いて、お通しのお皿を二つ置いたことを確認したうえでその盆を持ってカウンターへと向かうのだった。