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龍の姫・後編

 しかしながら、今回のことでその擬態が役立ちました。龍の山を管理するのは雄龍で、町の開発を進めるのは完全擬態が出来る雌龍と私が担うこととなりました。私は時折父の命令を聞き入れながら、日々町の復旧を進めていきました。

 具体的に何をするか、という話ですが簡単に言えば人の呼び込みですね。街を整え、最初は私たちが人に擬態して住んでいました。そして、人が増えるようになるとうまい具合に龍から人へ挿げ替えていったのです。そうすることで街が復活すると……あのときは、そう思っていました。

 人も増えて大分街として発展してきたある日、私の顔全体を子供達に見られてしまったのです。ドラゴンの匂いはなんとか消せましたが、擬態だけは完璧に出来なかった。そこを見つけられてしまったのです。

私は殴られ、蹴られ、何とかして逃げました。その間、決して抵抗はしませんでした。

 もともとこの街に人を戻すためにやっていたことですから、それを私の抵抗で崩してしまってはならない、と。これは受け入れなければならない試練なのだと、言い聞かせました。

 必死の思いで彼らから逃げて、擬態も解けてしまって、私はある店の庭に倒れこみました。

 誰かが私を見つけて、私はもう終わったと思いました。もうここで私の龍生はおしまいだ。そう思いました。




 次に目を覚ました私は、ベッドに横たわっていました。傷つけられた部分は綺麗に包帯がされていました。

 何があったのだろう、と私は思いました。

 そして直ぐにその意味を理解しました。


「目を、覚ましたかい」


 声を聞いて私はそちらを向きました。そこに居たのは、どうやら喫茶店のマスターのような方でした。

 格好はケイタ、あなたと同じ格好でしたよ。

 そのマスターに助けてもらい、私はいつか恩返しする旨を伝えて私は山へ戻りました。

 父は怒ることせず、ただ静かに私のことを宥めました。そしていつか恩返ししなさいと、そう言いました。

 さて、それではここで問題です。

 マスターは龍を助けて、そのあとどうなったでしょうか?

 答えは単純明快。

 そのマスターは人間を裏切ったとして、殺されたのですよ。店は潰されなかったですが、そこにあった資材はありとあらゆるものが持っていかれました。

 見ていた父は、やはり人間はダメな存在なのだろうかと考えました。

 結局、それを機に町からあっという間に人は消えたのですから。

 父も父の一派も人間を嫌いになりましたが、しかしながら、そのマスターだけは助けてあげようと思いました。

 しかし龍は神ではありません。死んでしまった命を生き返らせることは出来ないのです。

 その亡くなったマスターはその店を運営することで、世界に笑顔を満たしたかったそうです。

 では、そのマスターの願いをせめて聞いてあげましょう。父はそう考えたのです。

 ですが、それを行うためには料理人が居ません。人間の料理は、私たちには作れませんから。

 そのような時に、龍の卵を手に入れようとする料理人が私たちの前に姿を見せました。それが、メリューです。

 あとはもうあなたも知っているでしょう。メリューをドラゴンメイドにさせ、『ひと目見た人間の食べたいものを解る』能力を与え、ボルケイノの経営をさせた。そして私はそのサポートに回った……ということですよ。



 ◇◇◇



「……これで、昔話はおしまい」


 ティアさんは分厚い本を閉じて、そう話を締めくくった。

 ティアさんは立ち上がると、厨房へ向かっていった。


「それじゃ、ティアさんは……メリューさんと一緒にその目的を達成する、と?」


 俺の言葉を聞いて、ティアさんは立ち止まり踵を返した。


「そうですね。……それは、メリューよりも私たち龍に課せられた枷のようなものかもしれません。助けてもらったという恩を、返していかねばなりませんから」


 そして、ティアさんはそのまま厨房へ姿を消した。

 それは、ただそれだけのお話。

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