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(ドラゴン)メイド喫茶にようこそ! ~異世界メイド喫茶、ボルケイノの一日~  作者: 巫 夏希
エピソード43(シーズン3 エピソード14) 『お雑煮』
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鏡餅とお年玉・転

 メリューさんの冗談めいた発言に俺は失笑した。でも、よく考えてみるとここの時間軸ってどう定めているかさっぱり解らないんだよな……。魔術で何とかしているって話を聞いたことがあるけれど、実のところ超文明の科学技術が蠢いているのではないか、って感じもするわけだし。


「まあ、とにかく。別にそんな急ぎでやってもらうことでも無いし、空いたタイミングでいいわよ。その鏡餅は。あと……」


 メリューさんが俺にこっそり近づいて耳打ちする。


「あとで『お年玉』について教えなさいよね。シュテンとウラが貰えると思い込んでいるようだし」


 それを聞いて俺は合点承知とばかり頷くのだった。



 ◇◇◇



 次の日もボルケイノは営業日だった。とはいうものの、ボルケイノの世界には新年という概念はあっても正月行事という概念は無い。それがあってか、ボルケイノは毎週水曜日の休日以外毎日営業をしているのだ。

 俺は今日普段とはいつもより荷物が多かった。

 理由は単純明快。


「……何とか手に入ったな」


 俺はボルケイノのカウンターにそれを置きながらしみじみとそれを見つめた。

 鏡餅。

 日本の正月行事には欠かせない、大きさの違う丸餅をピラミッド状に重ねて、その上に蜜柑を置いたものだ。

 元来鏡餅とは正月までに飾らなくてはならない(俗に言う『一夜飾り』など)が、異世界に持っていくのだ。あの世界のルールなどどうだっていい。

 それにしても、まさか三が日最終日である今日まで鏡餅が売れ残っているなんて思いやしなかった。まあ、丸餅は本物では無くて、プラスティックで出来た容器だし、その中に角餅が入っているという、最近の簡素化された鏡餅ではあるのだけれど。それで妥協してもらうしか術はない。もしそのことについてあとでメリューさんからああだこうだと言われたら、それは謝罪しよう。

 問題は。

 そう、問題はもう一つあった。

 それぞれ封筒に仕舞ってある、二枚の紙幣。

 異世界の紙幣を持っていないので、あとでメリューさんに換金してもらおうと思っているが、不可能だったらそのまま渡すしかない。『この世界では手に入らない珍しいお金』と嘘をついて。

 俺の世界で言うところの『お年玉』と呼ばれるそれは、ほんとうならもうちょっとあげても良かったのかもしれない。

 しかしながら、シュテンたちの年齢が曖昧であるほか、俺自身お年玉を渡すのが初めてであったことから、少し控えめな金額となってしまっている。


「おや、ケイタ。今日は早いな。一体全体どうしたんだ……」


 メリューさんが俺に挨拶する。そして直ぐにカウンターに置かれている袋を見て、メリューさんは徐々にその表情を変えていく。


「おい……、まさかこれって」


 ビニール袋を手に取って、メリューさんはゆっくりと俺に訊ねた。

 俺は特に隠す理由も無かったから、そのまま答え始めた。


「ええ、それが鏡餅です。……とはいえ、昨日俺が話したやつとは大分簡素なものになってしまっていますが。急拵えで探すと、そのようなものしか出てこないんですよ。それについては、ほんとうに申し訳ないです」

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