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(ドラゴン)メイド喫茶にようこそ! ~異世界メイド喫茶、ボルケイノの一日~  作者: 巫 夏希
エピソード32(シーズン3 エピソード3) 『特製スープ』
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ダークエルフの憂鬱・中編

「メニューは無いのか?」


 そう言ったところ、マスターが陳謝した。


「ここは、メニューは無いんですよ。代わりに、あなたが一番食べたいものを提供することが出来ます。それが唯一のメニューとも言えますね」


 食べたいメニューが?

 いったい何を言っているのかさっぱり解らないが――とにかく待つしかない。どうやらこの部屋には優しい雰囲気があふれているように見える。ここに入ったばかりの時には気づかなかったが、どうやら結界のようなものを張っているらしい。


「少々お待ちください。たぶん、直ぐにやってくると思いますから」


 そう言ってマスターはカウンターの裏にある――厨房へと顔を向けた。



 ◇◇◇



 少しして、確かにそのマスターの言ったとおりに料理は運ばれてきた。しかも運んできたのは、赤髪のメイド――肌にドラゴンの皮膚のようなものがあるから、おそらくドラゴンメイドになるのだろうか――だった。


「お待たせしました、料理になります」


 コトリ、とカウンターに置いた料理から湯気が立ち込めていた。僅かの時間でこれほど暖かい料理を作ることが出来るのだろうか? 答えは否、だろう。少なくとも、私が知っている技術ではこのような時間で作ることは不可能だ。

 ならば、どうやって作っているのか? そんなことを考えてしまうが――少ししてそれは野暮だと結論付けた私は、両手を顔の前に合わせた。

 イタダキマス。これは確か命を頂く挨拶であると小さいころに教育された。

 我々は生きていくうえでエネルギーを摂取する必要がある。そのエネルギーを摂取するために一番効率がいいのは、肉を食べることだ。もちろん、肉を食べるということはその命を食らうことに等しい。だから、感謝の気持ちを示すのだ。そのために、『イタダキマス』という言葉を使う。

 それにしても――この料理は何だろうか? 食べたい料理、とは言っていたがあまりそのようには思えない。やはり、食べたい料理を出すのはうそだったのか? そう思いながら、私は銀のスプーンを手に取って、スープを掬い上げる。少しだけとろみのあるスープだったが、あまりそういうことは気にならなかった。たぶん野菜を煮込んでいるのだろう。

 それを口に運び、啜る。

 すると口の中に野菜の深み、甘味、旨味が口の中に広がった。


「……これは……!」


 これは、今までに食べたことがない!

 まさに究極の料理ではないか!

 スープの海に浮かぶ肉の塊。これを今度はスプーンで掬って口に運ぶ。噛むたびに肉の旨味が肉汁として口の中に広がっていき、こちらもスープの味と合わさって最高のフレーバーを生み出している。


「それにしてもこのスープの酸味と甘味は……」

「それはトマトという野菜ですよ。こちらではあまり馴染みがないかもしれませんが」


 マスターがそう言って、私は首を傾げる。

 トマト。確かにそのような野菜は聞いたことがない。酸味と甘味を生み出す野菜――きっと私の国にそれがあれば、料理の幅が広がるのだろうな。

 半分ほど食べたところで、私はあるものに目が行った。

 皿の上に載っている、数個のパンだ。小さいパンで、手に余るほどの大きさ。持つとカリカリしていて、よく焼きあがっているようだった。


「パンは……普通に食べていいのか?」


 私の国では、パンはパンだけで食べる。スープとパン、という組み合わせはあり得ないことだった。

 マスターは私の質問を聞いて笑顔で頷いた。


「ええ、それを適当な大きさに千切って、スープに付けるんです。それもまた、美味しいですよ」

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