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物の怪之宴(もののけのうたげ)  作者: 柊喜一
第一章 邂逅編
5/38

三日目 気がつけば旅の同行者 前編 (5)

 

 ――三日目。

 僕は案の定二日酔いで眼を覚ます。気が付けば、寝台。

「起きましたでしょうかや」

 相変もわらず先手は紬。

「今日は、都に向かうのでしょうかや。それとも手形を探しに?」

「話しましたか……覚えていない」

「ええ。手形を落として、山神様に会ったのでしょうや」

「山神? あ……」

「ええ。御山二つ向こうに山神様がおりましょうや。恐ろしい物の怪で、知る者は近づきさえ致しません。岩人殿も命拾いしたでしょうや」

「今日からは、都に向かいましょうかや。案内致します故」

「あ……しかし、手形が無いと意味が……」

 紬は、視線を僕の背後に送る。

「あれ……」

 そこには、黄泉の手形がある。

「山の方から、物の怪様がこの里の近くを横切りなさった。気になったので、向かい退治しましたでしょうや。そうしたら、ほら、其れが」

「なんと! 本物?」

 手形を撫で回し、または念入りに探り確認した。胸から伸びる白糸は、まぎれもなく、手形に繋がっている。

「ほ、本物だ! 名前もある」

 紬はにこりと微笑む。

「支度が出来たらお声をかけてくださいでしょうや」

 紬は、扉を閉めて向こう側へ行ってしまった。

「はい……どう……も」

 呆気にとられ、誰も居なくなった部屋でそう呟いた。



「紬殿。支度整いました。あれ……」

 部屋は、伽藍としており人の気配すらない。

 僕は、戸の隙間から外を覗き込んだ。

 荷を背負い、支度を整え終えた狩衣姿の紬が、表に居た。

 隣の方にはもう一方、どこかで視た覚えのある顔。

 ――そうそう、昨日の立会人だな。

 紬、すぐに此方に気付いて手をふる。

「岩人殿。紹介しましょうか。此方は、里長の百地団破モモチダンパ様でしょうや」

 老人は、歯をみせるように微笑む。

「昨日は、気持ちの良いやられ様でしたな。気に病むことはない、相手が悪うでしたわい。私も、紬殿には、敵いませんのでな」

「何をおっしゃいますやら」

「ははははは」

 百地団破は、愉快そうに笑う。

「おっと。長居しすぎたわ。ではな紬殿。お役目お任せましたぞ」

「はいな。任されました」

 百地団破は、雑踏の中へ姿を眩ます。

「さて、身体は如何でしょうかや?」

「問題ありません。駆けることも、出来ますよ?」

「では少し走りましょうかや」

 


 ――我々は山の中を、駆けていた。

 無造作に立ち並ぶ、樹々の合間を避ける様に縫う。

 全力で駆けている筈だが、紬は更に上をいった。

 寧ろ僕が後続として必死に駆けて居る訳で、紬に合わせてもらってる。

 そんな感じすら覚えるのである。

 昨日、立会い解るのは、彼女がかなりの手練だということだ。

 僕の常識の中では、間違いなく強い部類にわけられる。


 黄泉では下の方ではあるものの戦士として認められている。

 紬の強さ次元が違う様な気がした。


 ――おそらく、宮殿の近衛兵士並か。または壬母?


 壬母の顔が頭を過ぎる。

「故郷を考えているでしょうかや」

「ん」

 紬は、いちいち此方の心を見透かすのだ。

 僕が顔に出易い性分であったろうか。


 一刻(二時間)程走り続けた頃だ。

「付けられていましょうや」

「え! 何時から」

「半刻(一時間)程前から、馬でしょうや」

 気がつかなかった。

 耳は効く方なのだけれど油断した。

 「身を潜めましょうかや」

 紬は、駆けながらそう云うと、あっという間に樹々の中に行方を眩ます。

 紬に続いて、樹々の上に跳んだ。


 息を殺して気配を探る。

 なるほど、確かに馬の蹄の音らしいものが三頭であろう。

 連中はすぐ足元まで来て、馬から降りた。

 小太りの男と、痩せた男が下に陣取る。

 小太りの男は周囲を見渡しながら、云った。

兄者あにじゃ。気配が消えたな」

「おう! 陣兵衛。気付かれたか」

 兄者と呼ばれた痩せた男が返答する。

「この辺りに潜んでるかもしれねぇ。警戒しろ陣!」

 兄者、こんどは呼びすてる。

「承知だよ!」

「あんたもだ。きっちり仕事しておくれよ」

 兄者、別な方向に向かって云う。もう一人居る様だ。

 視線を移すと白髪の男。

「ああ……」

 その白髪の男を視るなり、寒気がした。

 三人の中で、誰よりも凶悪な念を放っていたからだ。

 正確に言うのならば、危険な念は彼の腰に差してる剣から発されたものである。それに気付がいたのは、この後であった。白髪の男に注意を払いながら様子を伺う。

 辺りは静まり、時折聞こえるものは馬のいななき位である。

「聞こえるな」

 白髪の男は言った。

「ああん? 何だって?」

 腹を揺すって陣兵衛が聞く。

「樹の上だっつてんだよ」

 皆揃って、樹上を視る。

 咄嗟に木陰に身を潜め、やり過ごそうとするのだが、足元が揺いだ。

 樹が斬られたのだ。何時と思う間もなくて、気付けば白髪の男は抜剣をしていた。

 地に着地。一先ず、連中と距離を置く。

「てめぇ!」

 痩せた男、兄者が叫んだ。








三月三日改稿

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