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物の怪之宴(もののけのうたげ)  作者: 柊喜一
第一章 邂逅編
4/38

二日目 現世で御縁が訪れた (4)


  先刻に、僕は紬に案内されて、着いたところは闘技場。円形の壁が周りを囲み、客席らしきものもある。

「ここは、皆の訓練場でしょうや」

 闘技場の中央まで歩むと、客席に野次馬が集まってきた。

「紬先生―!」

「猫だ! 猫!」

「ものの怪? 猫又だ! 尾が二本あるぞや」

 客席からとぶ声援や野次に、紬は笑顔で手を振りなんどする。

「周りは気にしないで良いでしょうや」

 紬はこちらににこりと微笑む。そうは云うものの、かなり気になる。

 獣が人型を成している例は、黄泉には多いのであろうが、ここは人間の集落である。

 受け容れられてもらえるかどうか至極不安だ。

 客席の者共の、言うように、僕は猫又という類のもので相違ない。

 大勢の人々が集るが、獣型は一人も見当たらないので困った。

 石でも飛んでくるのではと、内心びくびくしていたが、それは杞憂におわった。


「誰ぞ。立会人をお願いしますや」

 紬が、客席に向けて手招きをすると、厳しい顔の老人が客席から飛び降りて、こちらにすばやく歩み寄る。

「不肖私め、百地団破モモチダンパが立会い人を任された」

「まあ、もったいない」

 紬は、有り難そうに老人を拝む。

「では、各々、準備はよろしいか?」

 僕も紬も客席も、百地団破からの合図を固唾を飲んで待ちわびる。

「では! 始めぃ!」

 遂に、戦いの火蓋はきっておとされた。

 そうしたら、紬が遂に本性を現した。研磨された念力が僕の身体を貫く様で、その覇気に気圧された。

 ――手加減は無用。

 僕は内心そう決めた。一息で、間合いをすばやく詰めた後、紬の身体を拳で突く……筈だった。

「――あれ」

 素っ頓狂な声を出し、僕は後ろへ飛んでいる。

 自分の意志で飛んだ訳ではない。飛ばされたのだ。

 吹っ飛ばされたこの僕は、尻から見事に着地した。客席からはどっと拍手と歓声が挙がる。

 僕は咳き込み、お腹をさする。何故か背中も痛む。

 見上げると、紬は片腕を腰に当て、不動の構えでこちら視る。

 僕は、すぐに立ち上がり、再び構え相対した。されど、紬は攻めてこず、誘っているようにみえたのだ。

 うっすらと笑みを浮かべている感じさえした。


 最後に覚えていることは、迫る紬のてのひらで、本日二度目の気絶をした。気がついたら寝台の上であった。


 眼を覚ますと身体の節々が痛たみ、戦いの結末を思い出させてくれた。悔しい。

 でもそれ以上に、辺りを漂う味噌の香りが気になったのだ。

 ――ぐぅ。

 腹の虫が何か食わせろと、云わんばかりに鳴いてくる。

 それを聞いたかどうだかしらないが、素早く気配を察した紬がやってくる。

「お腹空きましたでしょうや。こちらへ」

 案内された、部屋には囲炉裏が備わって、それを囲むように二人ほど。

 三十代位の精悍な顔付きの男。

 その隣は、十代、可愛らしい、女子。

 僕は、胡坐をかいて座った。

「皆に紹介しましょうかや。黄泉の住人、岩人殿でしょうや」

「お世話になります」

 ふかぶかと頭を垂れる。

「わぁ! 黄泉の!」

「ほぅ! それは興味深いな」

 一同に、感心の声と眼差しを向けられ背中がむず痒い。

 こういう事に慣れていないのだ。


 女子が、居住まいを正して自己紹介をする。

「私、室町奏ムロマチカナデと申します。母がお世話になりました」

 続いて男。

「私は、室町綴ムロマチツヅリと申す。妻が世話になった。黄泉の話を、是非お聞きかせ願いたい」

 カナデツヅリも頭を垂れる。

 僕も釣られて頭を垂れる。

「お酒は、どうでしょうや」

「ええ。頂きます」

 その夜は、酔いつぶれるまで、酒を飲んだ。

 色々あるものが、一気に緩んだのであろう。

 記憶が定かではないものの、黄泉国の話なんどを、喋るに喋った気が致す。

 いろいろ聞かれ、余計に答え、その夜は大いに盛り上りをみせたのである。

 手形の事など忘れて大いに楽しんだ。







三月三日改稿

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