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物の怪之宴(もののけのうたげ)  作者: 柊喜一
第一章 邂逅編
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一日目 新たな身体で旅立つさ (1)

和風ファンタジーが書きたく思い筆を手に取りました。

◆大幅に修正いたしました。読んでくださり有難う御座います!



 ――放っておいたら何処までも落ちていく、宙空。

 宙で脚をかくけば、ゆっくりとではあるものの、歩くことが出来る。眼下は見渡す限りの大地。風に煽られた樹々がうごめく様子が伺える。


 今よりはじまる光景と、未だ視ぬ土地の風景を、感じると自然に胸が躍る様だ。気分は非常に爽快で、鼻を嗅ぎ、両の眼を命一杯広げて、下界の様子をうかがった。樹々の隙間から、野犬か狼であろう、走る獣の影が視える。

 僕の左眼は、赤く脈打つ生命の波動を、感知出来得る代物だ。闇の中だろうが、獣らがうごめく様子が、はっきりと視えた。


 浮かんでいるのは僕だけである。

 鳥や物の怪(もののけ)などの通り道でもあろう空も、今宵は僕の貸切である。そう思える程、空は大人しい。

 何故に、現世あ(げんせ)に訪れたか、それは僕が仕える御方の命によること他ならない。


 大勢の死者や物の怪が棲む黄泉の世界。別の名を、常世とこよとか異界。又は魔界とでも呼ぶ様で、大地の地下深くにあるとも、天高くにあるとも云われていた。


 黄泉よみ現世げんせの狭間には、黄泉比良坂が、訪れるものを迎える。その長い坂を下りきると、〈伽藍がらんの都〉がそこにある。それの端こには、古来より、王の住む月読殿つくよみでんがそびえ建つ。

王の統治の下、都は中々に栄える様子をみせていた。


 〈伽藍の都〉を統治する只一人の人物、女王・月読壬母つくよみのじんぼ

 僕が仕える主とは、その月読壬母つくよみのじんぼで相違ない。

 女王と言えども、とても気さくなお方であり、日頃は大層な者には見えぬ。

 壬母は、大勢に、己の事を「壬母じんぼ」などと気さくに呼ばせようとする。

 ただ、周り(側近たち)がそれでは宜しく無いらしい。彼らは皆、女王様・壬母様・壬母女王陛下などという具合に呼びやする。王だから、恐れ多くて呼び捨てに出来ないとでも、言うのだろうか。

 実に不思議である。


 年老いた家臣なんどは特にそうだ。僕がうかつに壬母など、呼び捨ててみるものならば、たちまち拳骨が飛んでくる。

 すると壬母は決まって、「よいよい」と笑顔でそれらをなだめるのだ。


 壬母はね、喧嘩がとても強いのだ。


 古今東西、大小様々、喧嘩の種類は数あれど、壬母は未だ負け知らず。

 僕の場合で数十人。

 剛のものでも、数百人。

 壬母に至って黄泉全域。

 詳しく知らないのだけれども、黄泉の住人、総勢三十五万。精鋭その内五万五千。

 それらは大抵、壬母と喧嘩した歴史を持つ。黄泉の住人は殆どが、喧嘩が好きである所為もあるのだろう。


 壬母は、例え相手が幼子でも負ける気はない。大人気ないともいわれるが、それが彼女なのだ。

 彼女はその強さ故、黄泉の住人から尊敬、又は畏怖の念を集め、黄泉を治めているのである。

 彼女は、東に物の怪が暴れていると聞けば、云って出向いて打ちのめし従わせる。

 そういう感じで、黄泉の地の半数以上を、喧嘩で勝ちったものだから、渋々と従う奴らや、恨む奴らもやたらと多い。

 壬母は気性こそ荒いけれど、家臣や民の話を良く聞く、良い王だとも思うのである。


「何者であっても、私を負かしたものと夫婦の契りを交わす」

 そういう壬母は、只の喧嘩馬鹿なのかもしれない。

 そんな日が来るのは実に怪しい。

 壬母がよろよろの老婆になるまで、その日は来ないのではないかと思うのだ。正味な話、そんな壬母は想像出来ないし、見たくもない。


 壬母は、ああいう人だから、「何遍でも掛かって来い」という。何遍でも挑戦した。

 挑戦は物心ついた頃から始まり、はや十数年が経ったのだ。いまだ白星が無いままだ。何時しか、下級戦士として都の警護の任についていた。


 壬母にただの一度も勝てぬまま、今や、現世に居ることは、僕にとっては無念の想いであると云っておく。


三月六日改稿

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