ケーキの話
彼は目の前にいる自称
自殺家で行為を繰り返す
家出少女を真顔で
珈琲みたいな色の真ん丸で小さい眼を彼女に向けていた
それは実にいきなりだった
ここが何処かも知らない少女が、木の扉を乱暴に
開けて、飛び込んできた
始め、あまりにも非日常的なそれに
動物か、それとも強風で扉をぶち破って、
何かが飛び込んできたのかと考えたが、次の瞬間、それが、安っぽい花柄の服を着た女の子だと気づく
その後が大変だった
床には女の死体が転がり
それをバッチリその女の子に見られた
しかし、女はそれを見て少し笑い、彼をどこか呆けた目で眺めた
彼女に死の感覚は実に
身近にして、憧れの存在だった
少なくとも、そういう死体でなのかどうかは、知らないが、その白く、か細い腕には無数の赤い線が
無惨にも刻まれているが
服がそれを邪魔し、隠していた
今彼女の心の真相には、恐れ恐怖があったが
しかしあれだけそれを見たがっていた
逃げ出したかった、意地がそのきかかいな
行動に彼女を駆り立てた
しかし男はすぐにその小さな人間を見て、始めて微笑んだ 足が押さえきれず、震えていたのだった。
[ねーこれ食べましょうよ]
少女が、冷蔵庫から綺麗なサタンの乗ったショートケーキを持ってくる。珍しく彼女がおねだりをしたのだ。しかしサタン何てものが乗っているケーキなど、どこで買ってくるのだろう
もしかして、オーダーメイドでも、したのか
もしそうなら、あの男がショーウィンドーの前で頼む姿を想像して、少し胸を締め付けられる思いがする。
彼女はそんなことをほくそ笑みながら、彼と自分の分を切り分け始め、ふと妄想をやめ
手元を見ると、そこには明らかに片方だけ大きい
ホールのショートと言うややこしい状況が置かれていて 、彼女をすぐに悩ますが
[まっ良いか]とそれを半分に切断
そのまま、三切れのケーキをもって
食後のテーブルに向かった。
始めこそ、二人は静かに、白と黄色いスポンジ
そして赤い果物の入ったそれを
パクついていたが、不意に男が自分で入れた珈琲
に口をつけて、それからその青白い指を
残ったケーキの白い皿に伸ばした
それは実に以外だったが
実は、すごく彼女だから、当たり前の事なのかも知れなかった
彼の白い手があった所に
まるで、ドラキュラの心臓を目指さんばかりの勢いで、白光する白い、プラッスチックの安い
フォークが突き刺さっていた
[お前なんて事しやがるんだ]男はそんなことおくびにも出さず、素早く無意識の内に、かわした手で
一瞬、ケーキにしようか、彼女を殴ろうか迷ったが
迷ったが、手は、体は素直で
軽く上げた足で、彼女の脳天を頭上から落とすのと同時に、その腕は宙に反動で打ち上がった白い皿をつかもうと延びている。
しかしそこは、ついケーキ欲しさに、フォークを手に刺そうとする女である
その行動を予測していたかのように
いや確実にしていて
その皿の下に貼られた白い糸を手繰って
気道をずらして、自らの細腕に、引き寄せた。
それは話し合いに終わることになる
時間にして三時間
ケーキのホイップが、その静かな議論のなかで
傾いた頃、不意に爆風が扉をぶち破り
ケーキと机等、以下同等のものを
二人の人間と共に吹き飛ばした
結果的に言えばその白い固形物はちぎれ無惨に
そして奇跡的に、少女の口と
男の口にホールインワンしたのは
今となっては、どうでも良いことである。




