野獣のすごいところ
だいぶ寒くなってきた。少し気を抜くと冬毛に生えかわりそうなくらいだ。
「山頂付近に比べると、まだ暖かいほうなんだろうね。ほらあっちのほう。雪じゃない?まともな道のりが見つかってよかったよ。まあ、道なんて何処にもないんだけど」
シャチと出会ってたぶん4日目。大物たちのお陰で素材には困らなかったので、緑のリュックサックに続いて紫のカゴとサイドポーチを取り付けた。カゴには画材とシャチ、ポーチには燻製肉を詰めて、寄り道せずにぐんぐん登っていく。
「なんか肉ばっか食べてるなあ。良いのかな、エルフ的に」
「むしろ肉ばっかなんじゃねえの、エルフ的に」
「あ、そうか。弓使ってるなら狩猟民族だもんね。キノコ食ってるイメージだったよ」
キノコ好きといえばホビットではないだろうか。
「うーん、でも私、植物の妖精のはずなんだけどなあ」
「人間を食い物にするんじゃないの?妖精的には」
「アハっ、あはは、魔性の女だねー」
山頂と違ってこっちは背は低いが木が生えている。岩と低木の間を縫うように、向こう側を目指した。
「アハっ、アハハハハ」
距離感が狂う。この山より大きいのではないだろうか。そんな巨大な人型の化け物たちが、延々と真っ黒な大地の至るところに立ち、時々足踏みをしている。恐らく、何か小さなものが生まれた端から、踏み潰しているのではないだろうか。
「アハっ。そっか、地獄だったか」
「俺が生まれた森のほう行こっか。2人で定住して熊牧場でもつくる?」
「・・・ありがとう」
「私ね、美女と野獣が好きだったんだ」
「そう」
「見た目じゃなくてさ、中身を愛するの。野獣のすごいところもよわいところも全部」
「そう」
「君のことがすき」
「そう」
「そばにいていいかな?」
「ええ」
「あはは、なんでそのネタなの。性別逆じゃん」
「シャチだってネタに気づいて乗っかってきたじゃん」
「あはは」
シャチはカゴから脱け出して、俺の頭にも乗っかってきた。
「君のまほうが解けるのを、楽しみにしてる。早く王子様になってね」
美女と野獣か。モ□ボシ版が好きだった僕は、彼女のまほうが解けるのが、怖くなった。僕はどんな顔をして良いのかわからなかった。
どうしよう。どうしようもない。僕は恋をしている。




