レアな顔
「ちょっと君キミ」
「ハイ ナンデショウ テンニョサマ」
「目が死んでるけど大丈夫?
え?なんのこと?全然わからない。それにしても天女さまはいつみてもお綺麗で素敵ですね。天真爛漫で可愛げもあり、何より知的で自立した女帝でらっしゃる。まさにパーフェクト!!
「これもレアな顔なのかなー」
お気に召されまして恐悦至獄にございます。
「うーん、山を越えるのに、防寒具が必要だと思うんだけど」
左様でございますか。天女さまがおっしゃるならきっと必要なのでしょうね。おい山の小動物ども、狩られて差し上げろ。
「何処かでふかふかな毛皮が油断してないかなーっと。・・・あれ?」
どうされました天女さま。
「そうか。何で気づかなかったんだろ」
・・・どうされました天女さま。
「ふかふかの毛皮あるじゃないか。すぐそばに」
《くうん ふきゅ》
「イヒヒヒヒヒヒヒ」
スースーする。ついに俺も女王様の餌食になった。よろしく、ゴブリンに大物よ。俺もお前たちと同列だ。むかしのことは水に流して仲良くやろうぜ。
「あはは、絹みたいにさらさら。うーん、君に守られている感じ。素敵だね。パーフェクト!!」
くそ、女王様は可愛いな。
毛は夕方には元に戻った。デカイだけの犬じゃなかったみたい。やたら食欲がでた以外は特に何もなかった。シャチは寝ている隙に一部を毛刈り魔法で収穫したことがあったらしく、今回ちょっとしたサプライズを込めて説明なしに全身も収穫したそうだ。俺だけスタイリッシュな格好で登山するのかと焦ったよ。良かった。本当に良かった。
復活したモフモフに安心と親愛を込めて毛繕いしていると、雨が降ってきた。シャチと出会う前の曖昧な記憶とあわせると、大体2日に1回くらいの割合じゃなかろうか。結構な頻度だ。さすがは山。
「あはは、ついにこれを使う時がきたか」
じじゃん、と口で言いながら俺に飛び乗ってリュックから何やら取り出そうとしている。じじゃん言うの早いよ。
「レインコートでーす。ゴブ革を起毛させて温かみを持たせてみました」
おお、長手袋や退廃ブーツと違ってふんわりしたかんじた。着替えを待っていると、程なくして現れたのは、噂に名高い森ガールだ。良かった。やっとエルフの自覚を持ったらしい。
「ちら、ちらちらっ」
だめだった。何故か俺の毛糸製お洋服を脱いで革製品のみを身につけたり捲り上げたりしていらっしゃる。それではモロ、モロモロッが正しかろう。
「いやあ、この体、体温高いみたいでさ。これくらいが丁度良いんだよねー」
「せめてパンツをですね」
「しょうがないなー。じゃあこのゴムが無いからやむなく紐で縛るタイプにした、素材が足りないからやむなく布地が少ない、情熱が有り余っていたから清楚で淫靡なレース生地の」
「テンション高いっすね」
「あはは」
再び俺によじ登って取り出したゴブ革の接ぎを、木や斜面を利用して雨避けとして設置していく。いや、パンツはいてください。
「さあて、シャっちゃんは湿気を御しきって良い絵が描けるでしょうか!?」
シャっちゃんとはどなたでしょうか!?リスだかオコジョだかわからない生き物(美味)から作った筆を手に、麻っぽい、鳥の足跡みたいな葉っぱの植物から作った布を木枠に張りつけ、さあ描き始める。というところで、シャチは笑顔のまま停止した。
「何かお気に召さないことでも?」
「諦めたんだよね。画家の夢。だから君のこと尊敬しているんだよ」
《くうん ふきゅ》
「あはは、ありがとう。違うんだ。やっぱ描くの楽しいなあって。って、まだ描いてないけど」
「俺は夢なんて追ってないよ。現実だ。お芝居はお客さんの空想の世界。作り話だけども。僕には現実の仕事だった。収入ないけど」
「いひひひ。格好いいね」
そうだろうそうだろう。
「さて描こうかな。こういう暗闇の中でこそ、見えるものもあると思うんだ。そこに目を光らせてさ」
今はライトにでも当てれば言葉通り光るだろう。猫の目に切り替えた瞳孔は俺を見ている。
彼女の見ている俺は、どんな顔で笑っているのだろう。僕にはわからない。この感情は初めてだ。




