第2形態
「やあおはよう」
「ああおはうおっ」
何だ。シャチが目を覚ました瞬間、彼女の毛色が変わった。金色から赤色に変わっている
「君が寝ている間に試してたんだけど、今のところ猫の目と丸耳と髪の色ころころ変えるくらいし出来ないんだよね」
良く見ると確かに尖り耳は消え去り、瞳孔も縦に潰れている。ちょっと怖い。第2形態みたい。
「そんだけ変われば充分だろう。俺も人間に変身出来る気がしてきた」
投石と盆踊りの練習を続けないとな。
はい、ワンエンツー、スリーエンフォー、ファイブ
「おお、おおお!」
「何か新発見ですかシャチさん」
「うん。あのデカブツのニカワ、多分絵具づくりに最適なんだ!」
膠だと?俺も新発見したぞ。それも2つ。まず1つ目、膠が絵具の材料になることだ。大昔の接着剤ぐらいの認識だった。そしてもう1つはシャチが絵具を自作するぐらいには絵画を嗜んでいることだ。
彼女は確か医師免許を持ち、国境をまたいでボランティア活動を続け、学生時代には乗馬とアーチェリーで賞を取ったこともあるという話だったはずだ。 どんだけ多芸なんですかねシャチさん。絵具自作ってどれくらいのレベルなんだ?カレーで例えるとスパイスから調合してるってことだよな。おいおいかなり本格派じゃないか。
「すごいな。どんなの描くんだ?」
「趣味のレベルだよ恥ずかしい」
「描いてみたら?材料揃いそうなら」
「でもこんな状況だし。ああ、ううん、いつまでもこんな状況の可能性のほうが大きいのかな。だったら楽しんだほうが良いか」
精神的な疲労も軽減できて良いのではないだろうか。人型どもの襲撃は俺に通用しないし。安心して絵を描けばよい。昨夜も寝る前に周囲を索敵したのだが、例の大物たちは日が沈む頃には適当な場所で熟睡していた。昨日の夕方の集団は、寝る前のひとっ風呂に来たのだろう。皆さん猛禽モードのお手々で永眠していただいた。
「とにかく、まずは山登りだね。あの滝の上まで行けば下の方までみえないかな。お楽しみは着いたあとに考えるよ」
「あはは、これは暫くは絵を描いてたほうが良いかも」
そこそこ時間をかけて滝口までたどり着いた。左右を望めばそこには山が連なっていた。とてつもなく緩やかなカーブを描いて麓の森に蓋をするように、視界の果てまでずっと。正面には俺が生まれたであろう針葉樹の森が続いていた。地平線までずっと。もしかしたら地の果てまでもずっと。
「ま、山の反対側に期待しようや」
「もっと犬らしく慰めてよ」
《くうん ふきゅ》
「いひ いひひひひ」
うーん、シャチさんきもかわいい。
「うーんとね、銅が採れるから、あるといいよねーあるはずだよねー。」
山を越えるには準備がかかる、と言うことで準備の合間に自由時間を設けた。犬の俺は余計なことを考えないので負担が少ないが、シャチにはガス抜きが必要なのだ。今は顔料をつくる、とかで採掘の魔法を使っている。本当に魔法なのだろうか。彼女の触れた地面が泥のように柔らかくなっている以外は、ぬか床をかき回している娘さんにしか見えないが。
「テントの固定とかでどうしても金具がつくりたかったし、一石二鳥だよねー。まだか、マラカ、マラカイトー」
ヤバい。シャチさんヤバい。天女さまが帰ってきた。女王様なんてどこにもいなかった。俺の空想の産物だったんだ。
その後、何だか大量に採れた銀と、便利だけど戦闘能力が全くなかったシャチの数々の魔法の応用により、電気を用いた恐るべき新拷問器具が完成するのだが、それはまた、別のおはなし。
俺は、泣いたり笑ったり出来なくなった。




