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畜生変  作者: 感 嘆詩
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長風呂好きのおっさん共

「畜生道、畜生道とよく言っているけど、君はお寺の生まれかい?」


「いや、ただの中2病だよ。古い佛語辞典とか見つけて読んでたんだわ。無駄な知識かと思ってたけど、古典芸能とか観るときは役に立ったね。雑学程度の下地でも全く知らないのとは大違い」


 お昼過ぎ。焼き肉パーティー(材料はヒミ・ツ)を処理したあと、再び周囲の探索を始める。

 午前中は、昨晩焚き火をしていた場所を基点に八方を駆けて乱獲していたのだが、必要な材料は粗方揃ったということで川沿いに上流を目指すことにした。山の上からこの地域一帯を俯瞰しようという考えだ。


「古典芸能って渋い趣味・・・ってそうか、役者の卵だったんだっけ。大変だよね。すごいと思うよ」


「いや、3年も海外で活動してたってほうがすごいだろう。どう考えても。社会的な信用も断然」


「全然。ピンキリだよ?」


「こっちだってピンキリだよ。人並みに続けられたのがお芝居しかなかっただけ。そして人並みの努力じゃ1人分の食い扶持も稼げないんだよね」


 衝動物系男子と呼んでくれい。衝動的に生きてるから。


「楽しそうに言う話じゃないよね?」


「しょうがないじゃない。他にやりたいことないんだもん。開き直って、生き詰まるまで生きようって考えるようになったんだよ」


 っと、雑談は終了だ。何かいるな。鼻をひくつかせてあちこち嗅ぎまわる。シャチが顎の下を撫でてきた。はいはい、今の犬っぽい仕草だったもんね。可愛がりたくなるよね。

 そのまま川沿いに進んで行くと臭いの主たちを見つける。流れが緩い滝壺の中で行水していた。かなりの大物だ。かなり立派な滝の下なので、縮尺感覚が狂いそうだが、俺より大きい。


「ゴブリンに次いで、また人型か。どうする?」


 山の中にはリスか小鳥のような小動物はいるが、ある程度の大きさの動物は今までゴブリン以外いなかった。俺が生まれた麓の森では、人型の化け物なんて一匹もいなかったが。住み分けが出来ているのだろうか。

 むう、いかん。雑念が邪魔すぎる。すっかり人間性を取り戻したのは素晴らしい事だろうが、今は邪魔臭い。集中集中。


「そうだな。手っ取り早く、高めの足場から滝壺に石を落とそう」


 それが手っ取り早いのかは知らないが、シャチの指示通りに動こう。頭脳労働は俺には無理だ。現世の犬頭なら尚更。





「うむ、うむむむ」


「ふむ、ふむふむ」


 シャチはゴブリンと同様に、便利魔法で皮を鞣したり骨髄を砕いたり白子を茹でたりの作業を並行して行っている。大物たちの体を解体しては頻りに感心している様子。

 俺はといえば、先ほどの投石攻撃が満足のいく出来でなかったので、試行錯誤している。その姿は玩具にじゃれつくただのワンちゃんにしか見えない。シャチの慈しむような視線が心に痛い。

 ううん。口で投げるには限界があるんだよなぁ。こう、上手く両の前足で挟めないかな。ううん。


「あ、ちょっとシャチ、モフるのは良いけど服を着てくんね?」


「服は解体で汚れたからしょうがないんだ。それにこいつら鼻が利かないみたいだし、他所からわらわら集まって来ないよ。うん、しょうがないんだー。全身でふかふかー」


 むう、欲情はしないけど気まずい。石に集中して誤魔化そう。


 《ぎゅぱ ぐわし》


 ・・・あれ?


「どうしたのって、おお、何それ」


 何か急に掴める様になった。前足の鋭い爪がまるで猛禽のように開いて石を固定している。


「君、もしかして、イメージと訓練次第で人間に戻れるんじゃ?表情も昨日と比べて人間臭いし。カートゥーンみたいで面白いなとは思ってだけど、本当にアニメ的ことが出来そう。ぺしゃんこになっても空気入れてふっかつ!とか」


 試さないからな。いや、でも、ううん。

 とりあえず二足歩行から始めよう。思惑通りにいかなくても、路上パフォーマンスでおひねり貰えるくらいは出来そうだし。おひねりも何も、まずは人間を見つけないといけないが。・・・ダメだ。このクソデカイ犬の姿じゃ、シャチのペットだと言い張っても駆除されそう。やっぱりちゃんと頑張ってみよう。





 しばらくはシャチがあれこれ作業を、俺が二足歩行でなんちゃって盆踊りを続けていたが、例の大物が複数、滝壺に向かってくる気配がしたので全てを中断して隠れた。


「しかし、どいつもこいつも行水が長いな。長風呂好きのおっさん共に見えてきた。落ち着いて準備出来るから良いけど」


「天敵がいないんじゃないかな。警戒する必要ないんだろうねきっと」


 影の濃い岩場の陰から、俺たちは再び滝壺を覗いた。太陽はまだ沈んでいないようだが、山の中なので暗くなるのが早い。そんな岩場を大物たちは危なげなく歩いていく。鼻が利かないかわりに目がよいらしい。


「よし、鼻はよくならなかったけど、目はネコをイメージしてみたら夜目が利くようになったよ」


 見るとシャチの瞳孔は人間ではあり得ないほど開いていた。ネコをイメージってシャチのことだからファンシーな想像力云々でなく、ネコの眼球の構造を真似たってことだよな。・・・解剖したことあるのだろうか。

 えぇい、雑念が邪魔だ。今は荒ぶる猛禽モードに前足を変化させ、投石によって大物たちの脳天をかち割ることに専念するのだ。脇に下ろした緑のリュックから石ころを掴み出し、滝壺に目を向ける。・・・投石などと立派な攻撃方法のように宣言しているが、実際は高所から石を捨てているだけだ。全然投げてない。骨格的に無理だ。これもイメージと練習で解決できるのだろうか?後で試してみるか。いかん、とにかく集中。





 雑念まみれが却って良かったのか、大物たちを全てかち割る頃には、へっぴり腰のアンダースローが放てるようになった。骨格変わっているだろこれ。もしかして本当に人間に戻れるかも知れない。


「わ、なにニヤついてるの?きもかわいい」


 鮮血まみれれシャチさんが何か喜んでらっしゃる。そうか、俺はニヤニヤしているのか。何だ、やっぱり人間に未練があるじゃないか。


「ごめん。たぶん今夜はずっとこの顔だわ明日からは大丈夫。たぶん」


「本当に?一晩だけかあ。レアだね。目に焼き付けておくよ」


 俺は喜びを噛みしめながら、でも犬の自分もけっこう気に入っているんだよな。と贅沢な悩みを抱いて眠った。人間性を取り戻して2日目が終わる。とても気分がいい。

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