クシティガルバ
廃墟で目覚める。
また犬に戻ったか・・・?いや、人モードのままだな。
何があった?ここは何処だ。たしか、
たしか宴の途中で、酔ったムチムチに変な絡み方されたはずだ。
また変なトラップでも踏んだんだっけか?
「ー、ーゥ、ーッ」
遠くで音を拾ったのでそちらに向かう。
「ガルバ。居たのか。みんなは無事か?」
瓦礫の街の、一際大きい廃墟の中でガルバがじっ、と柱を見つめていた。
「ああ、種。起きましたか」
ああ、俺、彷徨ってて正気に戻ったんじゃなくてただ寝てただけなのか。良かった。また正体なくしたのかと思った。
「ぐ、ぐうゥ、ぐぅぇッ」
苦痛の声に振り返る。ガルバが見つめていた柱に、貫かれている足が見えた。
「待ちなさい、種」
何だ!?・・・罠か何かなのか?
声が止み、こちらから見えていた細い足が、光かがやき、タンポポの綿毛のようにはらりと宙にバラけて、そのまま煙の様に細かくなって、最後には跡形も無くなってしまった。
「・・・なんだ。人が、溶けた?」
「死に戻り。だそうですよ。セガ曰く」
柱に近づいていくガルバ。
「オンラインゲームでよくあるのでしょう?アバターが死ぬとデスペナルティで経験値が何%か失われる」
再び柱の下で生き返った、リスポーンした足の方へ近づいて、手で触れる。
「同じように、この世界では死ぬと経験値、記憶と時間を奪われるようです・・・まだ早いか」
光の綿毛がガルバの手の中で散る。
「山の館のボスが良い例ですね。何度も死んで時間を奪われ、赤ん坊まで戻ってしまった」
「その下の、」
「ムチムチですよ」
曰く、この世界に迷い混んだ時の、この国の価値観に洗脳されてしまう前の彼女まで戻す。それが、彼女にとっての唯一の救いだろう、と。あるいは、
「僕がこの国を壊してしまったから、勇者ムチムチの生きられる場所がないから」
僕の尻拭いをこの子にさせている。逆だろう。それは。
「お母さんは何度か死んで気づいたそうです。赤ん坊になるまで戻ると言っていました。あの山の上で、胸を白木の杭で貫いて。全部まっさらにして、汚れていない自分をあなたに愛してもらうために」
だから私が第一夫人なんですよ。おとうさん。
そんな誠実さはいらない。そんな悲しい禊がこの世にあるのだろうか。何もかも抱きしめたかった。心を。あなたの。
「いや、この世じゃないのか。やっぱりあの世なのかな」
「地獄だなんて、おとぎ話じゃないんですから。・・・造物主がいるとしたら、少し、父性への愛情が歪んでいると思いますがね」
・・・少しか?
「だいたい、種は畜生道に堕ちたとか言っていませんでしたか?」
いや、六道ってのは状況っていうか状態を表す言葉に近くて
「じゃあ、地獄なんて本人の気分次第じゃないですか」
そうか。そうかも。凄い。霧が晴れたような気分だ。俺、悟りを開いたかもしれん。
「はいはい、苦悩の衆生を救えて何よりですよ。言ったもん勝ちじゃないですかこんなの。じゃあ人間が畜生道に堕ちたように、阿修羅の娘が天道に、人を食らう鬼が修羅道に、天の悪神が地獄にでも堕ちたんじゃないですかね?」
なんだそりゃ。豪華なメンバーだ。俺だけ人間とかずるいぜ。
「じゃあ、あなた雷の必殺技つかえますから、帝釈天だったり、大黒天だったり、大国主だったりするんじゃないですか」
そりゃないぜ。前世が神様なんて、おとぎ話じゃないんだから。
「この子の記憶をリセットし終わったら、次はお母さんを回収しましょうか」
そりゃいいけど、すごくいいアイディアで直ぐにでも行きたいけど、セガはどこ行ったんだ?
「ああ、何か大人の女になるとか言ってダンジョンに行きましたよ。内部で何年か過ごしてからムチムチバインバインになって戻ってくるそうです」
みんな勝手だな。こっちは少し待つだけで良いけどさ。何年も孤独にダンジョンで過ごす姿を、こっちが想像して何とも思わないとでも考えてるのだろうか。
一人で自殺し続ける姿を、何も言わずにひとり秘密を抱え込む子どもを。
「種、また何か思い悩んでますね。しばらく犬モードに戻られてはどうですか。あれこれ悩むなら、まだ寝てる方がマシですよ」
そうか。そうだな。なんかつかれたな。もうひとねむりするよ。畜生道に戦略的撤退だ。
久しぶりに、ふと、犬の顔で笑ってみた。
「ああ、それですか。確かにカートゥーンみたいですよね。それ」
カートゥーンなら良いな。おとぎ話は心に刺さりすぎるから。
「おやすみなさい」




