ナムチ
この国ではムチムチがダンジョンから帰る度、パレードだか祭りだか行うらしい。かつては細々と決死の覚悟で宝石たちが潜り、僅かばかりの食料と命を引き換えにしていたらしい。
しかし、英雄譚の主人公よろしくメチャクチャに強いムチムチのお陰で、それも大量の物資を、もちもの袋だかアイテムボックスストレージだかに抱えられるのでお国は大変発展したらしい。
その様な事を吟遊詩人担当みたいな宝石が口上のべつつ街を歩く。
何がお気に召したのか、カバンを鞍のようにして犬モードの俺に跨がり、国民に手を降る勇者ムチムチ。国と言っても邑、とでも言うべき、小さな小さな国ではあるが、それでも何百という人間の腹を一人の人間が満たすというのは、まさに英雄と呼ぶべきだろう。当人は花咲か爺さんの灰ように食べ物を投げつけばら蒔いているが。
「何と美しい。砂色の毛並み。この大狼が勇者ガルバの父君の真の姿なのか」
人形態で王様に業務報告に行ったのだが、パレードを高いところから観ていたらしい。すわ生け捕りの戦利品かと期待したら俺だった。という事で試しに目の前で変身してみたのだ。
惜しい欲しいと懇願するので刈り取った毛を後で献上すると言ったら大層喜んで、こちらも相応の物を下賜する用意があると張り切っていた。
「後で我が勇者に届けさせよう。さあ、宴だ。羊を三頭用意した。犠牲を王が手ずから絞めるのが、我が国の習わし。存分に楽しまれよ。勇者ガルバとその一行よ!」
「むふふ。むふん。むふん」
ムチムチ、酔うとこんな感じなのか。面倒くさそうだな。
「家族といのは良いものだな。私の久しぶりの家族だ。あれ。ガルバどのとセガどのは何処に行った?」
あれ。どこ行ったんだ。さっきまでいたのに。
「まあ、いいか。また後で渡せばよい。ほら、我が王からの下賜品だ」
周りで飲んでいた宝石たちが一斉に吐血した。
ムチムチも血を吐きながら近づいてくる。
ごぼ。
俺も。毒、か?なんだこれは。
「死を賜れる」
ムチムチが俺に刃を突き立ててきた。鼻からも目からも血を吹き出し、まるで泣いているかのようだった。いつもの底抜けな笑顔だったが。
「お前の毛皮がどおしても欲しいのだ。騙し討ちで恥ずかしいが、なに、代わりにこの場の宝石たちを死出の共とするがよい。安いものだ」
価値観の相違。上位者の命令が何よりも優先される。自分の命よりも。家族の命よりも。そんな風に矯正され変質した12歳の女の子の精神を、あの噴水は異常と見なし癒したのだろう。
あの時、彼女はどのような覚悟で、僕に逃げようと誘ったのだろう。こんな恐怖を抱えて。
なるほど。
裏切られたな。悪夢のような自棄で。
「なぁんだ。やっぱり地獄に落ちてたんじゃないか」
雷に姿を変える。突き刺された刃は一瞬で融点を越え気泡を作りながら溶けだした。それを裏返してそのまま、可哀想な彼女に叩き込む。
「ばんざい」
口から、傷口から、血の代わりに光が漏れだしている。この姿になってもダメージが消えないらしい。恐ろしい毒だ。
ガルバとセガは無事だろうか。
シャチ。
ムチムチ。
このまま命尽きるまで暴れてやろう。
せっかくここは地獄なんだから。等割の名にふさわしくしてやろう。あの王も、その宝石も、全部細切れにしてやる。
「シャチぃぃぃぃ。どこにいったんだぁぁぁ。どこにもない。楽園なんて何処にもなかったぁ。地獄だったぞぉぉぉぉ」
「ここはぁ、地獄だぁぁぁぁぁぁ...」




