裏切り
この泉というか噴水みたいなものには名前がついてるのか?
「えーと、アムリタ、らしいぞ!」
ごった煮じゃないか。いや一応甘露、か?ごった煮だったら良いな。ただ名前を借用してそれっぽくしてるだけの可能性がある。地獄説は信じたくない。
信じる信じないが事実現実に影響を与えられればどんなに良いか。
「とりあえず飲ませるぞ」
「ばぶー!ばぶー!」
すごいな。こんなにも無防備に無造作に人は赤ん坊の真似が出来るものなのか。恥じらいとかないんだろうか。いや、形は違えどみんな恥じらいとか無かった気がする。こういう気の許されかたなのだと思うことにしよう。あれだ、なんだかんだみんな父性を求めていたのだ。
「む。毒が消えた」
赤ん坊の態勢で真顔になられると困る。
「ついでに水浴びしよう。汗かいたし」
まあ、毒で苦しんでいたからな。全身で浴びたらそのバーサク状態も解除されてくれんかね。
「わああああああ!」
「今度は何なんだ」
今更だが一応、礼儀として外していた視線を戻す。
子供が噴水の中で蹲っていた。
「・・・本当に普段が状態異常扱いだったのか?」
「あはは、そうみたいだな」
喋り方は同じだが、声は幼く、細い肩がガクガクと震え気の毒である。前に宝箱から出てきたタオル、というか、タオルケットを放ってやってまたそっぽを向いた。中身は二十歳相当なのだろうが。二十歳だって充分学生の範疇だ。姿も振る舞いもゲームのキャラクターになりきって、今まで戦ってきたんだろう。価値観の違う異世界で。独り。
ねえ パパス
息を呑む。底抜けな勇者ムチムチではなく、本来の彼女の声音なのだろう。弱気な少女の声。彼女は僕に心を開かないと文句を言っていたが、彼女だって心を開いていなかったじゃないか。
「ここは天国なんでしょう?ならここで暮らしません、か」
声がどんどん上擦り、しゃくりあげていく
「痛い。くるしい。こわい。私は、」
たすけて パパス、パーパ。
小さな子供が浸かれるくらいの小さな噴水に足を入れる。ビショビショのタオルごと抱え上げてそのままグシャグシャの目元を拭った。
「家族を残してきた」
だからここには逃げれない。
「そうだよね」
ガルバが言っていた裏切りってこれか。だからあんなに言葉をぼかして僕に伝えていたのか。皆を捨てて逃げるように唆す。こんな可哀想な人のこんな懇願の、どこが裏切りだろうか。
ここは地獄めいた異世界なのだろうが、ただの子供だったこの人には、間違いなく異世界みたいな地獄だったのだ。
縋りついて何が悪い。
「君も家族になろう?」
彼女はありがとう、と呟き更に泣き出す。強く。強く縋りつく。無条件の愛が必要なのだ。子供には。優しく抱き締め返す。
「でもハーレムはいやだな」
子供の綺麗な瞳で言われた。そんなつもりで言ったわけじゃ。いや、説得力ないのか。その、ごめんなさい。




