子ども
「ごめんね。でも体を完璧にしないと。いつまでも。ね?」
三面六臂の巨大な赤んぼうを淡々と吸収していく。
自分の子どものために他人の子どもを餌としてさらう鬼女の話が、仏教の説話にあった気がする。仏が彼女を救ってくれるならどんなに素敵か。修羅と鬼は違うかもしれないが。
「あのボス、空腹でかなり弱ってたみたいだね。あの家から動けないもんだから餓死と復活くり返してたんじゃないかな?ごはん抜きの罰だね」
「家か。そういういえば家に見えるな。この建物」
シャチの家を元につくられているのだろうか。ずいぶんな豪邸だ。
「これからどうする?山の向こうの巨人たちでも殺す?」
セガは以前に増して、意欲的だ。俺はあの真っ黒な地平線の彼方には行きたくない。シャチのようにガルバやセガがいなくなる切欠になるんじゃないかと不安なのだ。
「駄目ですね」
ガルバに先を越された。俺には意外だった。ガルバは焚き付けると思っていた。彼女たちの考えや苦しみを、なにも理解してない僕が勝手に予想するなんて失礼な話だけれど。
「どうして?」
「かち合うかもしれないから」
「あー」
セガは何か納得したようだった。俺にはわからない。
「そう。じゃあわたしは逃げた女のために子どもを諦めればよいの?」
「セガ」
「シャチは向こうに行ったのか」
「駄目です」
「なぜ」
「お母さんが望んだから」
シャチの思惑がわからない僕は、黙るしかない。セガの顔つきが変わる。母親はみんな、子のために鬼になるのだろうか。
「あなたにとっては裏切り者でも、私にとってはお母さんなんです。私のママじゃない。あなたの継母じゃない。記憶と感情を継いだ私は」
「あったばかりの人間に、そんな風に思えるの」
「セガはどう思いますか」
同じように、子どもも親を慕うのだろうか。わからない。
僕はただ、そばにいてくれればそれで良かった。それすら叶わない。ガルバもセガもいなくなって、またひとりになるのだろうか。




