施餓鬼
「ない。そ。どうしようわたし。なぃ。そ。」
早朝、セガが緑のテントのなかで何かを探していた。同じ毛皮や鍋を繰りかえしひっくり返している。
「おい、落ち着け」
「わたし。そ。ごめんなさい」
「ああ、腕、復活したんだな。おめでとう」
「そ。うで。そうか。そんな。うでか」
「いらないこんな腕!これのせいだ!あー!」
「やめろ!落ちつけ落ちつけよ」
「あーっあーっああああああああっ」
《ぱしゅ ぐらっ》
両腕を手に入れた彼女の体は強靭で、押さえつけるのに骨が折れた。ガルバのフォローで何とか鎮まったか。
「何があったんだ」
「何でもありません。ガキがわめいているだけですよ」
「おはようお兄さん。どんより素敵な朝だね。」
「のんびりするにはちょうど良い天気で俺は好きだな。少し寒いけど」
「ずっと女の人のこと、引きずってるみたいだし、子供が出来ればそっちに気持ちが向くから、ガルバちゃんの代わりにわたしが産んであげようって。でも怖くって、やっと決心したのに、食べちゃった。わたしの体が完璧じゃないから、あかちゃん。腕になって。こんな腕いらないよう」
「こんなに辛いなら、生まれてこなければよかった。ごめんなさい」
セガの腕を掴んだ。新しい腕はほそい指のあとがいくつもあって。
「お前まで、勝手にいなくならないでくれよ。それだけが俺は怖いんだ。頼むから」
「そっか、ごめんね。大丈夫。誰かさんみたいに一人でどっか行けるほど強くないよ。二人がいないと生きていけない」
「辛いときは側にいるから、一人で思い詰めたりしないでくれ」
「あー、大丈夫だって。ガルちゃんには相談したし。お兄さんに伝えなかったのは悪かったけど」
「今日はこのままずっと寝て過ごそう。な。ほら、冬毛はふかふかで寝ごこち最高なんだぞ」
「あー、ちょっとガルちゃーん!?何かー話し通じなーいっ。ちょっとせまい!デカイ!朝から寝てたら退屈で死んじゃうよ!もう、いいからっ」
「いいから寝るぞほら、いつも歩いてばかりだからな。たまにはそんな日が必要なんだ」
呼ばれてから、いつの間に入って来たのか、ガルバは犬化した俺の背中でくつろいでいる。
「しかたありません。種を安心させるためだと思ってここは諦めなさい苗床」
「あれ!?わたしそんな呼び名なの?」
良かった。セガも納得したようだ。よかった。気を抜くとみんないなくなってしまいそうで、まだ少し怖いけど。やっと、落ち着いて眠れる。




