理由
「知識が同じでも、絵は変わるねー。当たり前だけど不思議。違うものがみえている」
「種馬。うごかない」
ガルバがちっちゃいシャチになって早速、二人は絵に取りかかった。俺もやってみようかな。
「地平線の向こうには何があるんだろうねー」
「それは希望でしょう」
「さすが私の娘。断言したね」
「ずいぶんと殺伐とした希望ですね」
「アハハハ」
「人がすん・・・いや、見なかったことにしないか?」
1日歩いた先でやたらでかい建物を見つけた。山の上からはこんなものは見なかったはずだが。
「入ろう。こんなところに突然あるなら、きっと意味があるんだよ」
「意味?」
「そう。理由でも良い。理由がなくて許されるのは、人を愛する気持ちだけだよ。あとは全部、理由がないと」
「誰もいないね。生活感はあるのに」
「ねぇよ生活感。臨場感はあるよ」
《じるっ じるり》
建材の繋ぎ目や血しぶきから青い粘液が溢れだし、じくじくと音をたてて盛り上がっていく。膨れて弾けるように、中から顔が突き出た。
「へー、こうやって生まれるんだねー」
「シャチっ」
「うううああー。こおぱー。あえー」
「アハハ、ここも地獄かあ」
ひどい顔で笑う。シャチの前には、可愛らしい声をあげる、三面六臂の巨大な赤ん坊が生まれた。
「「「ままー」」」
「アッハハハハハあハハはあはハハハはは」
シャチを抱え込んで巨大な建物から逃げ出した。川沿いに、地の果てを目指して。
「お父さん。その姿では長距離は無理です。犬の姿に。お母さんを固定します」
「大丈夫。自分で掴めるよ。でも支えてくれるなら嬉しいかな」
ふかふかー、と撫でながらオレの背にのる。カゴは置いてきた。何もかもブカブカで、モフモフの欠片もない。
「すごいね。お姫さまのピンチに覚醒して人間の姿
を取り戻すなんて。君、前世は少年漫画の主人公だったんじゃない?」
「そうだよ。運命に導かれて地獄までシャチを救いに来たのさ」
「ゴブリンとデカブツね、多分私の患者と仕事仲間。縫った跡とか、顔の形とかでわかった」
「そう」
「さっきのやつはね、お父さんの顔してたんだ」
「そう」
「それすきだねー」
日が暮れて、僕らは人の姿で抱き合っていた。犬耳も尖耳も引っ込めて、見た目だけは人間だ。
「シロネコはさ、きっと、野良猫をありのままに受け入れてくれたんだね。私にとって君がそうだ」
「性別逆じゃん」
「あはは」
シャチは僕の首筋に顔を埋める
「地獄行きな人たちばかり現れた。やっぱりここは地獄だよ。君は漫画の世界にでも帰ったら?」
「シャチが言うと本気に聞こえるな」
「冗談じゃないよ。いや、冗談だよ」
「ガルバは」
「警戒と食料調達。明日の夜まで、一人占めさせてくれるって。今夜は寝かさないぞ。いひひ」
「大丈夫。落ち着いて、眠れるようになるまで、そばにいるから」




