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「あの・・・面白いミステリー探してるんですけど」
あたしの前にまるで小熊のような男の子が
恐る恐るという感じで立ちはだかっていた。
ま、実際そんな大層なもんではないんだけど
でかい・・・・・
このお客さん、190センチはあるよ・・・
それに・・・・
まるでラグビー選手か何かのように
体格がいい。
でも、その表情は、怒られる子どものような
怯えというかなんというか・・・
大学生くらいに見えるんだけどね。
そんな顔しなくっても親切に対応くらいしますけど。
「はい、ミステリーですね。今までどのような作品を
読まれましたか?好みが分かれば
お勧めもしやすいので。」
あたしは極力笑顔を作って受け答えした。
我ながら進歩です。
ま、営業スマイルもとことん身につけさせられてましたけど。
「えっと・・・最近流行りの物は大抵。
古典的なものではアガサ・クリスティーが特に好きですね。
最近映画化されたものとかも
結構お気に入りで全シリーズ読みました。
それから・・・・」
フムフムと聞きながら、
あたしは、ミステリーコーナーへと
お客様を案内する。
あたしは、書架から、8冊くらい本を抜き出して
「こんなのはいかがでしょう。
どれも結構人気のものです。
それと、これは私が読んで面白かったものです。」
と、お客様の前に見やすいように並べた。
「あ・・じゃ、これにします。」
小熊のようなお客様は、
あたしが面白かったと言ったものを手に取ると
「お会計お願いします。」
とあたしに差し出した。
「ありがとうございます。」
あたしの言葉になぜかそのお客様は
一瞬固まって、それからぎこちなく
あたしの隣を歩き始めた。
「い・いい本教えてもらってありがとうございます。」
ちょっとつっかえながら
お客様はあたしにお礼を言ってくれた。
「いい本かどうか、読んでもらえたら嬉しいです。」
そう返すと、一瞬顔を赤らめて
「はい!」
と、結構大きな声で返事した。
体育会系ですね・・・・
大きいけどなんだか可愛い。
そんな、くまちゃんみたいなお客様は
それからしょっちゅう見かけるようになった。
そしてあたしから、
お勧めの本を訊いては
一冊づつ買ってくれるのだった。
「何かあの客、よく見かけるな。
知り合いなの?」
雄輔さんがある日あたしに言った。
「ううん。最近お勧めの本をよく買ってくれるんです。」
「へぇ・・・」
何か思案顔の雄輔さん。
どうしたんだろうと思いながらも
気に留めることなく、数日が過ぎた。
そして、そんなある日、
「あの・・・・・
もしよかったら、この後、この本のことについて
もう少しお話したいんですけど。」
と、くまちゃん・・・もといお客様に声をかけられた。
「え・・・あの仕事中ですし・・・」
「7時までですよね。僕このまま待ってますから。」
「え・・・・?でも・・・・困ります。」
どうしよう・・・・
これって、ナンパとやらでしょうか?
お客様はそのまま雑誌コーナーへと移動し、
帰る気配もない。
・・・・・・・・・・・・




