⑥
「むやみにひっくり返すと、余計分かりにくくなります。」
冷静なあたしの声に
「んじゃ、あんたが探しなさいよ!」
と、片桐さんの声がかぶさった。
なんであたしが?
あなたのミスでしょ?片桐さん・・・・
「バイトのくせにエラそうに意見するくらいだったら
あたしが探して見つからない予約票、
さがしてみなさいよ!」
・・・・・・・・・
何か論点めちゃくちゃなんですけど
分かってますか?
雄輔さんが、ちょっときまり悪そうに
あたしに声をかけてきた。
「オレ、こういうの得意じゃねーンだわ。
でも、見つけねーとまずいんだ。
手伝ってくれっか?あ、いらっしゃいませ!」
店に入ってきたお客さんが
レジに雑誌を持って近付いてきた。
片桐さんは笑顔をさっと張り付けて
「お買い上げありがとうございます。」
と、レジを打ち始めた。
・・・・・・・・・・・
仕方ない・・・・
このカウンター、取り合えず片付けるか。
どっちにしろ、これじゃ仕事になんてなんない。
昨日のPOPの紙の残り、マジックはもちろん
いろんなチラシや宣伝用のしおり、
文房具やファイルが雑然と重ねてある。
バラバラのマジックと紙を重ね、
事務所に戻した。
期限の過ぎたチラシや明らかにいらないものは
ゴミ箱に捨てた。
ファイルは綴じかけのまま
中途半端に置かれていたので
日付順にして綴じていく。
様々な伝票も日付順に並べていく。
・・・・・・・あった・・・・。
雑誌の受け取り伝票に交じって
予約票が1枚出てきた。
取り合えず、目立つ場所に挟んでおいて
ファイリングを済ませた。
ファイルを元の棚に戻して
そこで必要な文房具だけをカウンターに残した。
そして、お客さんを見送ったのを見計らって
片桐さんに声をかけた。
「これでしょうか?」
あたしの手から予約票を受け取った片桐さんは
「そうそう、これよ!
やっぱりここにあったんじゃない。」
って、何事もなかったかのように
それを所定の位置に綴じた。
あんたねぇ・・・・と一瞬思ったけど
小さくため息ついてあたしはまた
店内の整頓に戻った。
黙って本の補充をしていると
雄輔さんがやってきた。
「ありがとな。カウンターも綺麗にしてくれて。
予約票もちゃんと見つけてくれたんだろ?
すげーな。天板があそこまで綺麗に見えてるのって
ほんと久々だからびっくりしたぞ。」
そう言って、ニッコリ微笑んだ。
物の5分で出来ることを
出来ない方がおかしいとあたしは思うけど
ここではそれがすごいと言われるのね。
でも、そう言えばあたしも初めはそうだった。
何度も何度も
「机上は余計なものを置くな!」
って、言われたっけ・・・