⑤
カウンターの中で、
今日も相変わらず片桐さんは
常連のオトコのお客たちに笑顔を振りまきながら
順調に売り上げを伸ばしていた。
あたしはいつものように
お客さんが手に取って少し置き場所の変わった
雑誌や本の位置を整える。
一切頭を使わない楽な仕事。
考えることを拒否しているあたしに頭にとっては。
もちろん、体力的にはきついけど。
トントンと、きれいに角をそろえるのは
ファイリングの時のくせ。
「雑な処理をするな。」
いつも言われてていつか無意識でも
びしっとそろうようになった書類。
「机はいつもすっきりしておけ。
探し物する時間は無駄だ。」
・・・・・・・・・・・
じわっと涙がにじんでくる。
だめだ・・・今、そんなこと思い出してちゃ。
軽く頭を振って雑念を振り払うと
またあたしは、本の整頓を続けた。
「あれ・・・どこに行ったっけ?」
片桐さんが、カウンターをあちこちひっくり返しては
何かを探している。
「さっきまであったのになぁ・・・」
「どうした?」
雄輔さんが声をかけると
「お客さんから預かった予約票、
さっきこの辺に置いたんだけど
見当たんないんだよね・・・・」
と、片桐さんの少し焦った声が聞こえた。
それって・・・・まずいでしょ。
「早く見つけねーとまずいんじゃねー?」
雄輔さんが言う。
同感です。
「そうなのよね・・・」
そうなのよねーじゃないと思うんですけど。
そりゃ、あんな乱雑な机だと
薄い紙一枚どこかにまぎれちゃったら
分かんなくなりもするよ・・・・
雄輔さんがバサッとカウンターの上の
紙の束を
ひっくり返そうとした。
「ダメです!」
あたしは思わず声をあげてしまった。